37.次のクラフト、見つけた!

 地面の上に転がる、グラントータスの亡骸。千体以上もいたグラントータスの群れは完全に沈黙した。


「……終わった?」

「おい、動いてないよな?」

「勝った……のか?」


 誰かがそう呟いた瞬間、張り詰めていた緊張が一気にほどけた。


「やったぞおおおっ!!」

「全部倒した!? マジかよ!」

「生きてる! 俺たち、生きてるぞ!」


 平原に歓声が響き渡る。剣を掲げる者、地面に座り込んで息を整える者、仲間と肩を叩き合う者。それぞれが勝利を実感し、喜びを噛み締めていた。


 そんな中、前へと歩み出たのはシオンさんだった。


 返り血一つ浴びていないその姿は、先程までの激戦が嘘のように凛としている。だが、その表情は厳しさを解き、どこか安堵を滲ませていた。


「諸君、見事な戦いだった。想定以上の数、そして異常強化された個体。それにも関わらず、誰一人欠けることなく討伐を成し遂げた」


 シオンさんは、冒険者一人ひとりをしっかりと見渡した。


「これは、偶然ではない。諸君らが互いを信じ、状況を見極め、即座に対応した結果だ」


 その言葉に、誇らしげに胸を張る者もいれば、照れたように頭を掻く者もいる。


「今回の討伐により、街道および周辺集落への脅威は完全に排除された。民間人への被害もゼロだ。諸君らは、確かに王国を守った」


 次の瞬間、歓声が爆発した。


「うおおおおっ!!」

「やったぞ!!」

「酒だ! 今日は飲むぞ!」

「国家魔術師様のお墨付きだぞ!」

「一生の自慢話ができたな!」


 あちこちで笑い声が上がり、重かった空気はすっかり晴れ渡っていく。疲労の色は濃いが、それ以上に達成感が勝っていた。


 シオンさんは小さく微笑み、続ける。


「負傷者はすぐに治療へ回れ。報酬については、規定に加え、今回の功績を上乗せして支払われるよう手配する」

「おおっ!」

「太っ腹だ!」

「上乗せ、期待しているぞ!」

「当然だ。命を賭してくれたのだからな」


 その一言に、冒険者たちの顔が引き締まる。軽口を叩いていた者たちも、自然と背筋を伸ばしていた。


 私もホッとしていると――。


「よっ、無事だったか?」

「ひゃっ! はは、はいっ。そ、そちらも……ご無事で……」

「大変だったけど、なんとか無事だったぞ」


 あのパーティーの人たちが近づいてきて、ビックリした。なんとか返答をしていると、その姿に目がいった。


 グラントータスの攻撃でそれぞれの服が見事に切り刻まれていたのだ。


「あっ、やだ! 今、破けた服見てたでしょ。エッチ!」

「えっ、あっ、いえっ、そのぉっ!」

「冗談よ。全く、嫌な攻撃だったわね。お陰で服がボロボロになっちゃったわ」

「修理するの大変ですよねぇ……」

「……裁縫、めんどい」


 パーティーの人たちは困り果てた顔をした。それもそうだ、いつも着る服が無残にも切り刻まれたのだから。今後の冒険にも支障が出るだろう。


「戦闘になると面倒なのが、服が破けることだよな。俺なんて、着ている服がどれもこれも継ぎはぎだらけなんだぞ」

「本当にどうにかならないかしら。もう、グランの服を修理するのは疲れたわ」

「……どうしようもない」

「はぁ……。切れない服があればいいですよねぇ」


 とても深刻そうにため息を吐いた。どうやら、戦闘中に服が破けることが悩みの種らしい。


 みんなの会話を聞きながら、私は無意識のうちに、破けた服へと視線を向けていた。


 裂け目は鋭く、まるで刃物で切ったようだ。けれど、よく見ると布そのものが引きちぎられているというより、縫い目や繊維の隙間から、するりと裂けているようにも見える。


 ……あれ? 少し、違和感があった。


 私はしゃがみ込み、落ちていた布切れをそっと拾い上げる。指先で触れて、引っ張ってみると思った以上に、簡単に糸がほつれた。


 弱い。布自体は、そこまで薄いわけじゃない。むしろ、革や厚手の布を使っている部分もある。それなのに、戦闘になると簡単に裂けてしまう。


 原因は……糸? 縫い糸を目で追う。太さはまちまちで、撚りも甘い。力が一点にかかると、すぐに切れてしまいそうだ。


 それに、布の織り方もあまり密じゃない。網目が揃っていなくて、隙間が多い。だから、衝撃を受けた時に力が分散されず、そこから一気に裂ける。


 頭の中で、点と点が繋がっていく。この世界の服って、素材も構造も弱いんだ。


 糸が弱く、切れやすい。織り目が粗く、衝撃に耐えられない。だから、戦闘のたびに服がダメになる。


 そりゃ、毎回ボロボロになるよね。


 冒険者たちが、継ぎはぎだらけの服を着ている理由も、ようやく腑に落ちた。


 戦えないからじゃない。直しても、直しても、またすぐに破けてしまうからだ。


 私は布切れを握りしめ、小さく息を吐いた。


 もし、糸を強く出来たら?


 もっと丈夫で、切れにくい糸。網目をしっかり詰めて、衝撃を受け止められる織り方。


 それだけで、冒険者たちはずっと楽になるはず。


 服が破れない。動きを妨げず、守ってくれる。それは、防具と服の中間みたいな存在になるかもしれない。


 私は顔を上げ、ボロボロの服を着た冒険者たちを見回した。


「あーあ。グラントータスのような甲羅が欲しいな」

「……分かる。破けないものが欲しい」

「でも、布って切れるのが普通じゃないですか?」

「それはそうだけど……。欲しい物は欲しい!」


 パーティーの人たちが口々にグラントータスのような甲羅が欲しいと言った。もし、グラントータスの甲羅の強度のような服が出来れば……。


 ……うん。やるべきことは、もう決まった気がする。


「……私に任せてください」

「えっ?」


 すぐにその場を立ち去り、シオンさんの下に行く。


「シオンさん!」

「ぅおっ!? ど、どうした?」

「あの……グラントータスの亡骸を貰ってもいいですか!?」

「グラントータスの? まぁ、いいんじゃないか? 冒険者への報酬は別にあるし……」

「ありがとうございます!」


 良かった、許しを得られた! よし、全部のグラントータスの亡骸を素材に変えて、グラントータスの甲羅の力を得た服を作って見せる!

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