20.再びアウリィ商会へ(1)

「はぁはぁ……人が……多い……」


 通りの隅で体を小さくして進む。誰もこっちを見ませんように。声をかけてこないように。私はミジンコ、私はミジンコ……。


「ヒナ、頑張れ。アウリィ商会はもうすぐだぞ」

「うぅ、人がいるところは辛いぃ……。なんで、転移魔法で移動するのがダメなんですかぁ」

「そりゃあ。こんな高等魔法を使ったら、他の人達が驚くだろう。そういうところでは使えんなぁ」

「なんでぇ、どうしてぇ……」


 転移魔法で一発で移動出来る! と、思ったけれど、シオンさんが許してくれなかった。うぅ、こういう時のために高等魔法っていうのはあると思うんですけどねぇ……。


 ヨロヨロと進んで行くと、懐かしい看板が見えてきた。それが見えた瞬間、私はシュバッと駆け寄る。


「つ、着いた~……」

「うむ、よく頑張ったな。じゃあ、中に入って、今度は人と対面だ」

「ひぃぃ! これからが本番だったぁ!」


 ホッとしたのも束の間、厳しい現実が待っていた! 仕方がない、ここはシオンさんを盾にして、私は後ろで控える作戦に……。


 私は黒猫のシオンさんを持ち上げると、ゆっくりと扉を開けて店内に入っていった。顔面にシオンさんを用意して。


「いらっしゃいませー」


 声が聞こえて、体がビクつく。そろそろとカウンターに近づいていくと――。


「あっ!!」

「ひぃっ!?」

「もしかして、ヒナさん!?」

「は、は、はいぃぃぃ!」


 シオンさんを貫通してこっちに意識を向けてきた!? それでも、シオンさんを盾にしてカウンターに近づくと――自分の手をガッと掴まれ、バッと下ろされた。シオンさんの盾がっ!!


「ヒナさんの事、ずっと待っていたんだよ! 来てくれてありがとう!」

「は、はひぃっ!」


 キラッキラの笑顔が胸に深く刺さる。やめて! 私をそんな顔で見ないで! 浄化されてしまう!


「もう、ヒナさんの作った物が凄く人気になっちゃって、ビックリしちゃった! あんなに人を惹きつける物を作れるなんて、ヒナさんは凄い職人さんだね!」

「い、いやっ、そのっ……!」

「お客さんがあんなに笑顔になったの、初めて見たよ! アイテム一つであんなに幸せにするなんて、ヒナさんは凄いなー! 尊敬しちゃう!」

「えっ、あっ、あははっ、あははははははははははははは!」

「す、ストップ、ストップ! サリサ、これ以上は話しかけないでくれ!」


 あばばばばばばばばばばばばばばば!


「あっ、ごめん! ヒナさんは人と話すのが苦手だったね!」

「おい、ヒナ! 大丈夫か!?」

「ははは、はは、は……スハーッ、スハーッ、スゥゥゥハーーーッ! だだだ、大丈夫に、なな、なりま、したっ!」

「……大丈夫には見えないが。ヒナが言うんなら、大丈夫なんだろうな」


 心臓が止まりかけてた! 生きているって素晴らしい!


「ここからは私が対応しよう。今日はアイテムを作ってきたから、売りに来た」

「それは本当!? 凄く待っていたんだよ! じゃあ、お店の奥に連れていくね」


 シオンさんが前に出て会話を進めると、サリサは嬉しそうな顔をしてお店の奥へと連れてってくれた。前回と同じ応接間に通され、私達はソファーに座って待つ。


 しばらくすると、扉が開いた。


「ようこそ、アウリィ商会へ。あなたたちが来るのをとても楽しみに待っていたわ」

「リネア、よろしく頼む」

「よ、よろ、よろしく、お願いしましゅっ」


 穏やかな顔をしてリネアさんが現れた。リネアさんは私達の向かいのソファに座ると――。


「ヒナさんが作ったアイテム、凄い事になっているわ! そりゃあ、もう! 大反響で大変だったんだから!」

「ひぃっ、すいませんっ!」

「造形も完璧な上に能力の付与が凄まじかったらしいわよ! 普通の付与よりも効果が絶大で、使用者は凄い恩恵を受けたらしいわ! 一体、どんな付与術を使ったの!?」

「えっ、えっ、えっっっっっと……ふ、普通で……」

「あんなのが普通な訳ないじゃない! とんでもない能力だったって話よ! 素材に含まれた魔力が少ないから付与出来る能力は小さいかと思ったけれど、とんでもないものだったわ!」

「こ、こらこら。リネアも落ち着いてくれ」


 急に興奮気味に喋り出して怖い! ビクビクしていると、慌ててシオンさんが間に入ってくれた。


「これが、落ち着いていられないわ! だって、凄いことなのよ! あんな低級の素材に高度な能力の付与が行われただけでなく、その能力の強さが!」

「能力付与の事では私も驚いたが、そんなに効果的だったのか?」

「えぇ、とんでもない効果だったらしいわよ。疲労は全然感じないし、何度も幸運な事が続いたっていうし……。そんじゃそこらの能力付与とは訳が違うって事だったわ」

「ふむ……どうやらヒナの規格外はどんでもない規格外っていうことだったのか……」


 何故か二人で語り始めた。私の付与術の話なんだけど、そんなに驚くことだったのだろうか?


 こんなのクラフトワールド・オンラインでは当たり前だったし、逆にそれがないとアイテムは売れない。だから、当たり前の事だったんだけど……。


「今までの付与術の常識を打ち破る物なのは間違いないわね。正直言って、付与術だけで仕事をすれば、めちゃくちゃ儲かると思うのだけれど……」

「いや、ヒナは物を作るのが好きだからな、付与術はおまけみたいなものだと思うぞ」

「こ、こんな付与術がおまけ……。ま、まぁ……アイテム自体も良い物だから、その気も分かるけれど……。あんな、高度な技術の付与術がおまけ……」


 シオンさんの話を聞いて、リネアさんは魂が抜けたような顔をした。いや、付与術はおまけなんですよ! メインは物作りの方です!


「話が逸れてしまったが、早速本題に移ってもいいか?」


 あっ、とうとう本題が始まるみたい。新しいアイテム、売れるかな?

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