ダンジョン攻略は初心者ですが、蹂躙なら任せてください。

烏の人

第1話 目覚め

 成功事例─────No,2

 型番005 アルティミット-Magia


 目覚めて僕が最初に知覚したのは、その情報であった。怯える白衣に身を包んだ男達。僕を産んでくれた人たちだ。僕に名前をくれた人たちだ。何故そんなに怯えているのか。僕にはわからない。同じ姿形をしているはずなのに少し傷ついた。


 ─────ゴミ捨て場で僕は目を覚ます。またあの日の夢を見ていたようだ。人の体は不自由だ。燃費が悪い。休息を必要とするのが僕の唯一の弱点だろう。おおよそ、アルティミット究極と呼ぶには相応しくない。


「よいしょ…。」


 起き上がり、少しぼーっとする。地上に出てから1週間。放浪して情報を集めた。

 極論、僕が生きていく為に必要なものは睡眠だけだ。だが、社会で生きていくならどうだろうか?僕だってもっといいところで寝たい。清潔は保ちたい。そう言う欲はある。そう考えたときに出てくるのは、知識にはある『ダンジョン』の存在。


「金を稼ぐのであれば間違いなくそこ…。」


 『探索者』として金を稼ぐことが出きれば、僕もこんな浮浪生活とはおさらばできる。

 探索者になるには『ギルド』の存在の存在が欠かせないことも知った。そう、今日、僕は晴れて探索者となるために目を覚ましたのだ!きっと!!


「じゃ、行こうかな。」


 背伸びをして、今まで僕の寝床となっていた暗い路地裏のゴミ捨て場に別れを告げる。ひとたび町中に出てみれば自分がいかに浮いている存在かがわかる。しかし、それも今日でお別れだ。駆け足でギルドへと向かう。心なしか、その足取りは浮わついたものだった。


 町中に佇むひときわ大きなビル。場違いな僕はそれでもその中に入っていった。

 ギルドの中へ入っても、僕を見る目線は異様であった。真っ先に受付へと向かう。僕の相手をしてくれたのは20代ほどの女性であった。


「あら、どうかしたの?」


 こちらを見下げるわざとらしいその声に返す。


「探索者登録をお願いしたいんですけど。」


「探索者登録…身分証はもってる?」


 身分証ねぇじゃん!何よりこの体…人間で言うところの12歳相当の体!


「あ、い、いえ…。」


「そっか…君、名前は?」


 もしや完全に浮浪の子供だと思われている?これ、大丈夫かな…。


「名前…。」


 名前も名乗れるようなものはもっていない。あるのは型番だけ。嘘でしょ?こんなところで詰みとか嫌だけど?


「名前もわからない…魔術はつかえる?」


「はい。それはつかえます!」


「…そっか、ちょっと待っててね。」


 そう言うとその女性は携帯を取り出しどこかへ連絡をし始めた。受付からバックルームに入っていった彼女。どこに連絡をしたのだろうと考えていると後ろから声が聞こえた。


「おいガキ。」


「?」


 振り返るとそこには屈強な男。見たところ前衛職。装備から剣士であることがわかった。年齢は20後半という辺りか。


「ここはお前見てぇなのが来ていい場所じゃねぇんだ。帰んな。」


「嫌ですよ。帰る場所無いし。」


「あ?」


「何ですか、あなたもあの人たちと…一緒ですか?」


 少し、魔力が溢れた。その一瞬で回りの空気が変わったのがわかる。静まり返ったその空間に、殺意と緊張が充満する。


「ちょっとちょっと!何ですかこれ!!」


 そのタイミングで、彼女は帰ってきた。その言葉に、僕は魔力を制御する。彼女は僕の後ろに立っていた屈強な男に向かい続ける。


「レイジさん!あんまり威圧しないでください!!子供ですよ!?」


 レイジと呼ばれた男は狼狽えながらも答えた。


「いやぁ、その、探索者の登録ができるのも15からだし教えてやろうとしただけなんだが…。」


「全く…その悪人面と口調直してからそう言うことしてください!あと、威圧も禁止!!」


「ま、待って…威圧はその…俺じゃなくて…。」


 レイジの視線が僕に止まる。


「え?」


 彼女も硬直する。


「あ、そ、その、教えてくれてたんですね!ごめんなさい!」 


 いや、あれは本当に勘違いする。しかし今は、それどころではないかもしれない。ギルド中の視線が僕に集まる。


「君がやったの?今さっきの。」


「は、はい…。」


「…わかったわ。すぐに迎えが来ると思うから詳しいことはその人に聞いて。探索者登録はそのうちできると思うから心配しないでね。」


 そう言うと彼女は僕を抱き締め、言葉を続けた。


「今まで欲頑張ったわね。もう大丈夫だから。」


 そう言うと、彼女は再び受付へと戻る。何の事かさっぱりわからなかった。迎えとは一体なんだろうか?これから僕はどうなるんだろうか?そんな思考が渦巻く。

 しばらくすると、ギルドという場所に似つかわしくないスーツを着た初老の男がやってきた。軽く、受付の彼女と言葉を交わすと僕の方へとやってくる。


「君かい?ギルドの中でとてつもない魔力を放ったって子は?」


「は、はい。」


「まあ、そう緊張するんじゃない。俺は三森みもりだ。君、名前は…わからないんだったな。すまん。」


「い、いえ。」


「帰る宛ても無いって話だがあってるか?」


「はい…。」


「そうか、君の意思に任せることにはなるが…俺のところに来てはくれないか?」


「三森さんのところ?」


「ああ、どうする?」


 これは、乗った方が言い話なのだろうか?いや、断ればゴミ捨て場生活だ…。1択だろう。


「よ、よろしくお願いします。」


 そうして僕は差し出された三森さんの手を取ったのだった。

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