第二十一話 凍れる死闘
いつもは七割くらい書き換えるんですが、今回はかなりAI版の文章を採用しました
やるなGemini3!
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――リビングには、穏やかな時間が流れていた。
姉の優香が焼いたクッキーをつまみながら、他愛のないテレビ番組を眺める。
それは、外では「氷の女王」として恐れられる早希にとって、唯一心安らげるひととき、その、はずだった。
「……ひっ!?」
きっかけは、つけっぱなしになっていたテレビから聞こえた爆発音。
CMの演出で流れたその小さな音を耳にした瞬間、優香の肩が跳ねる。
手に持っていたジュースのグラスが零れ落ち、テーブルに染みが広がっていく。
「……あ、ご、ごめんね。急に大きな音がしたから、お姉ちゃん驚いて、手が滑っちゃった。でも、大丈夫。私は、大丈夫だから」
震える手でテーブルを拭きながら、必死にそう言い募る姉の顔はしかし、今にも倒れそうなほどに青白い。
それでも気丈な笑顔で「なんでもない」と言い続ける姉の姿に、早希は何も言葉をかけることが出来なかった。
(……おねえ、ちゃん)
早希は、グッと唇を噛み締めた。
表向きは健康で、幸せそうにも見える優香。
だが、その心につけられた傷は深い。
今でもちょっとした物音に震え、「戦い」や「魔法少女」を想起させるものを目にしたり耳にしたりすれば、トラウマがよみがえってパニック症状を起こしてしまう。
(あの事件さえ、なければ……!)
思い出すのは、忘れもしない「あの日」のこと。
マスカレードナイト仮面が現れるほんの少し前。
魔物の出現頻度が減少し、強い魔物がほとんど現れなくなったことで、「休眠期に入ったのではないか」なんて説が囁かれ、誰もが心のどこかで油断をしていた時代。
そんな時に現れたのが、C級モンスターの〈イービルアイ〉。
魔力総量は低いが、高い知能と残虐性、そして「負の感情を増幅させる」という最悪の固有能力を持つ「ランク詐欺」と言われる魔物だった。
それでも、優香の実力なら、本来は勝てるはずの相手。
だが、〈イービルアイ〉は狡猾だった。
あえて優香を正面から狙わず、その魔物は逃げ遅れた子供を攻撃対象とした。
それを、姉は見捨てられなかった。
逃げ遅れた子供を庇って、魔物の狙った通りに邪眼の光を浴びてしまったのだ。
魔法によって増幅された恐怖と激痛。
そんな絶望的な戦いの中で、優香はそれでも人々を守るため、戦い続けた。
……戦い続けて、しまった。
命を、精神をすり減らして必死の抵抗をする彼女の下に、魔法少女による救援は遅れに遅れた。
当時の弛緩した空気の中で、救援の初動があまりにも遅かったのだ。
訪れることのない救援を待ち、体力が底をつき、心が折れ、ついには動けなくなった優香を救ったのは、魔法少女ではなかった。
ただの勇気ある「一般人」たち。
優香に庇われた学生たちが、避難誘導をしていた警官が、魔法少女のピンチに立ち上がった。
彼らの武器は警官の持つ拳銃と、学生たちの持つソフトボールや筆記用具、それからなけなしの勇気だけ。
それでもその死に物狂いの泥臭い抵抗が実り、急所である目を負傷した魔物は一時行動不能になり、無事に優香は救助されたのだ。
姉が積み重ねてきた「善意」が、最悪の窮地において、彼女自身の命を繋ぎ止めたと言える。
(……でも)
それは美談かもしれないが、あまりにも紙一重の結末だった。
避難誘導のため、拳銃を持った警官が居合わせていなければ。
彼らの攻撃が偶然、魔物の小さい目に当たっていなければ。
姉は、いや、姉だけでなくその場の全ての人間が間違いなく死んでいた。
魔物災害の前では人の命など、たった一つの不運であっけなく散ってしまうものなのだ。
(似ている……)
「凪の時代」と言われ、世間が魔物の脅威を忘れ始めていた「昔」と……。
「マスカレードナイト仮面がいるから大丈夫」なんて根拠のない安心に身を任せ、すっかりと緊張感をなくした「今」が、ひどく重なって見える。
だからこそ、早希だけはマスカレードナイト仮面を認めない。
安易な救いを盲信して、「失敗しても誰かが助けてくれる」なんて気持ちで戦えば、いつかきっと、姉と同じ悲劇が起こるだろう。
そのために、自分だけは誰よりも厳しく振る舞い、緩んだ意識を締め直さなくてはいけないのだ。
ブーッ、ブーッ。
その時、早希のスマホが震えた。
画面に映った名前は、今まさに魔物対策に出動しているはずの後輩魔法少女のもの。
『せ、先輩! ご、ごめんなさい! で、でも、今、現場で魔物が出てきてて! まだ気付かれてないですけど、敵の数が予想よりもずっと多くて、こ、これじゃ……』
「落ち着いて。大丈夫、私もすぐに向かうから」
早希は短く答えて通話を切ると、まだ顔色の悪い優香に向き直り、笑顔を作った。
「ごめんお姉ちゃん。バイト先で急に欠員が出ちゃって。ちょっと行ってくるね」
出来るだけなんでもないことのようにそう言って、立ち上がろうとした瞬間、手をつかまれる。
「待って!」
驚く早希に、泣きそうな表情を浮かべて、優香が問いかける。
「それは……。それは本当に、早希ちゃんじゃないとダメなの? 私、私は、早希ちゃんに危ないこと、してほしくないよ」
「お姉ちゃん……」
早希の「バイト先」が魔法少女だとは、姉には一言も打ち明けてはいなかった。
しかし、今の優香の目は、それを確信している気配を漂わせていた。
優香の、優しい姉の想いが、痛いほどに早希の胸に突き刺さる。
それでも、
「うん。私は、大丈夫だから。……行ってきます」
心配そうに見つめる優香の手を優しく振り切って、早希は立ち上がる。
姉の視線を振り切るようにして、早希は夜の街へと飛び出した。
※ ※ ※
早希が到着した時、現場ではすでに戦闘が開始されていた。
「さ、下がらないで! 陣形を維持して!」
後輩の魔法少女が指揮を執ってかろうじて持ちこたえてはいるものの、小型の魔物の群れの圧力に押し込まれ、防戦一方になっている。
いつ戦線が決壊してもおかしくない状況だった。
早希はステイシスフレアの姿で、混迷したその前線の真っただ中に降り立つ。
「先輩!?」
「蹴散らします! 射線を開けなさい!」
驚きと安堵の声を背に、左手の結晶に魔力を集める。
(この状況なら……! 力を貸して、姉さん!)
左の甲に埋め込まれた「水」の魔法発動体がうなりを上げる。
「――吹き散らせ! 〈スプラッシュウェイブ〉!」
放たれた水の波が、押し寄せてきた魔物たちを一時的に吹き飛ばし、後輩たちに息を整える暇を与える。
だが、それだけでは終わらない。
「――凍りつけ! 〈アイスエイジ〉!」
右手から放った冷気が、〈スプラッシュウェイブ〉で濡らされた魔物たちを凍りつかせる。
そのすさまじい戦いぶりに、背後の魔法少女たちが、息を飲む。
「す、ごい……。これが、ステイシスフレアさんの、本気」
左手に宿る、姉から引き継いだ「水」の力と、右手に宿した、自分自身の「冷気」の力。
それらを使い分け、時に組み合わせて戦う、異質な戦闘スタイル。
それが、世界でたった一人、〈ステイシスフレア〉だけの戦い方だった。
「これで余裕が出来たはずです。陣形の再編を」
凛とした声が、少女たちに落ち着きを取り戻させる。
「け、怪我をした人たちは後ろに! 魔力に余裕がある人は前に来て!」
リーダー格の魔法少女が指揮を執る間に、早希は単身で敵の群れに飛び込み、鎧袖一触というように敵を分断、その数と勢いを削いでいく。
その姿は、パニック寸前だった魔法少女たちに勇気を与えた。
「わ、わたしたちも続こう!」
「いけるよみんな! これなら勝てる!」
戦況は一気に好転し、現場には勝利のムードが漂い始めた。
(火力は十分。あとはこのまま押し切れば……)
一息ついて、戦況を確認した早希も勝利を確信した、矢先だった。
「これは……! 下がって!!」
不気味な地響きと共に、アスファルトが爆ぜた。
地面の下から、壁の隙間から、無数の魔物が湧き出してくる。
十や二十ではきかない。
百を超える、圧倒的な数の暴力。
「な、なにこれ……!?」
「嘘でしょ。こんな数の魔物が隠れてたなんて……」
事前に魔力の反応はなかった。
だが、現実は残酷なまでの物量という悪夢でもって、少女たちを包囲していた。
「――逃げなさい!」
状況を理解した瞬間、早希は後ろも振り返らずに叫んでいた。
「で、でも!」
「足手まといだと言っているのです! 貴女たちがいては、私が全力を出せない!」
それ以上の問答をすることなく、早希は背後に巨大な氷の壁を作り、後輩たちと魔物たちを強制的に分ける。
自分一人だけを、魔物の群れの中心に残して。
「……〈アイシクルブレイド〉」
四方八方から迫る殺意に対し、早希は氷のサーベルを生み出すと、深く息を吐く。
逃げることはできない。
ここで食い止めなければ魔物たちは市街地へ溢れ出し、避難した人々を襲うだろう。
(私が、やるしかない)
殺到する、数えるのも億劫になるほどの数の魔物に、ステイシスフレアは一歩も引かなかった。
「――全て凍てつけ! 〈コキュートス〉!!」
自身の使える、最大最強の魔法。
それは視界に映っていた魔物たちを一瞬にして氷漬けにして……。
「……まったく、嫌になりますね」
凍った魔物たちを押しのけ、仲間を大量に殺された恐怖などないように這い寄ってくる魔物たちの姿に、小さく悪態をつく。
ほんのわずかでも余裕があったのは、その時まで。
もう〈コキュートス〉のような大技を放つような魔力の余裕はない。
「斬り、裂けぇ!」
磨き上げた剣技と身のこなしで魔物たちをさばいていくが、
(くっ! 一体一体の強さが、上がっている!?)
最初に姿を見せていた魔物たちに比べ、あとから現れた魔物の強度が異様に高い。
一体を倒すまでの手数が増え、それはじわりじわりと早希の体力を削り取る。
動きに精彩がなくなり、少しずつ、早希の身体に傷が増えていく。
「ま、だぁぁ!!」
それでも、早希はあきらめない。
攻撃が通らないなら、精密に弱点を狙い。
疲労で動きが鈍るなら、最小の動きで攻撃をやり過ごす。
十体、二十体、三十体……。
魔物の死骸が山となって積み上がっていく。
だが、
――キィィィン!
不意に早希の耳が、嫌な音が捉える。
それは、酷使しすぎた氷のサーベルが限界を迎え、その先端が折れ飛んだ音だった。
「しまっ――」
その一瞬の隙を、魔物たちが見逃すはずもなかった。
「ぐ、うっ!?」
均衡が、崩れる。
サーベルに気を取られ、注意が散漫になった瞬間、横から痛烈な突進を受けて吹き飛ばされた。
「先輩っ!!」
「ステイシスフレアさんっ!!」
凍える夜に、痛々しい悲鳴が響き渡る。
それに応えるようにかろうじて身体を起こすが、それだけで脇腹に激痛が走る。
手の中のサーベルは刀身が折られ、今は半分ほどの長さになっていて、今はもう、サーベルを修復するほどの魔力も残ってない。
対して、魔物たちは数さえ減ったもののいまだに健在。
全力の状態でも対処に時間がかかるような強敵が、じりじりと距離を詰め、早希を逃がさないように包囲を狭めている。
あきらめるつもりは、ない。
それでも、自分がここで生き残れるとは思えなかった。
(ここ、までか。ごめんね。おねえちゃん……)
覚悟を決め、それでも最後の抵抗をしようと、足に力を込めた瞬間、
「――凍てつく雫が落ちる夜、仮面の騎士が舞い降りる」
憎たらしいほど落ち着いた声と共に、早希の視界を光の線が走った。
「あ、は……」
同時に、早希があれほど苦労して戦っていた周囲の魔物たちが、一瞬にして身体を両断されて地面に転がる。
そして……。
一瞬の空白地帯となったそこに、黒いマントを翻して降り立ったのは、彼女が最も忌み嫌う男。
「――マスカレードナイト仮面、参上」
場違いな衣装の騎兵隊が、静かに戦場に降り立った。
助かった。
誰もがそう思う場面だ。
だが、早希の心に湧き上がったのは、安堵などではなかった。
早希は血まみれの身体を無理やり起こし、ふらつく身体で立ち上がる。
「救援には、感謝します。ですが……」
彼女はギラついた瞳で、足を進め、
「――これは、私の戦い。手出しは無用です」
自分を庇うマスカレードナイト仮面を追い抜かすように、前へ出る。
「ふむ?」
バカなことをしているのは、自分でも分かっていた。
それでも、ここは譲れなかった。
(こいつには、こいつにだけは、助けられる訳にはいかない!)
姉を助けてくれなかった、という個人的なわだかまりは、もちろんある。
でも、決してそれだけじゃない。
仮面の騎士の奇跡に頼らないように自立を訴える自分だけは、絶対に彼に助けられてはいけない。
そうでなければ、誰も自分の言うことなど聞いてはくれないだろうという確信があった。
そう、たとえ……。
たとえその結果、ここで命を落としたとしても。
(――私だけは絶対に、彼に助けられたりはしない!)
だから、早希はふらつく足で仮面の騎士の前に立つ。
「もし、それでも貴方が介入しようというのなら……」
正面から仮面の騎士を見据え、何よりも強い意志と不退転の覚悟を持って、言い放った。
「――私は貴方を一生、許さない!!」
自分が人を助ける側であるからこそ、分かる。
善性の人物であればあるほど、助けられる人の心情は無視出来ない。
その、はずなのに……。
「え……?」
目の前の仮面の騎士は、まるで早希の言葉を心底から喜ぶように、ニヤリとその唇を邪悪に歪めていたのだった。
―――――――――――――――――――――
ステイシスフレアの 「きらいになっちゃうぞ」こうげき!
しかし かめんのへんたいには こうかがなかった!
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