第二十話

 と私が人間の国とエルフの国のことを考えていると、思い出した。我が人間の国の国王から、ヒラメを釣って欲しいとたのまれたことを。でも私は今は、釣る気にはなれなかった。もう夕方で、日がれてきたからだ。


 そして、お腹がいてきた。うーん、またレストランに行って食事をしようかな。いや、このホテルの中でも食事はできるだろう。それも良い。レストランで食べたモノとは、違ったモノが食べられると思うからだ。


 あー、でもきっと野菜が中心なんだろうなあ……。そう考えていると、ひらめいた。そうだ、今から釣りに行こう! そして釣った魚を食べてみよう! そう決めて私は、ホテルを出た。


 ホテルを出て右に曲がると、遠くに海が見えた。お、海だ。まあ、このエルフの国も海に面している部分があるから当然だが。とにかく私は、その海に向かった。


 砂浜すなはまに着いた頃にはちょうど、オレンジ色の夕日ゆうひが見えた。わー、きれいだなあ。やっぱり夕日は人間の国で見てもエルフの国で見ても、きれいだなあ。


 それに心をおだやかにする、しおにおいもした。ああ、この匂いも同じだ。人間の国もエルフの国も、空と海でつながっているんだなあ。そう思うとエルフの国と人間の国の違いに少しショックを受けていた私の心は、落ち着いた。


 さてと、それじゃあ釣りますか。あ、でもおきに出るには小舟こぶねが無いと。と考えて私は、キョロキョロと周りを見回みまわした。すると左側の向こうに、木製の小屋と小舟が見えた。よし、あれを使おう。


 その小舟に近づくと、精悍せいかん顔立かおだちの若い男性のエルフがいた。私は、聞いてみた。

「すみません。ちょっとその小舟を、貸してもらいたいんですが」


 するとそのエルフは、人懐ひとなつっこい笑顔を見せた。

「ああ、これかい? いいよ、使っても」


 よし、小舟ゲット! あ、でも、いくらかはお礼をしないと。なので私は、聞いてみた。

「あのー、すみません。お礼は、いくらはらえばいいでしょうか?」


 それを聞いたエルフは、ぶんぶんと右手を顔の前でった。

「いやいや、いいよタダで。お礼なんか、いらないよ」


 マ、マジですか? 人間の国では小舟を借りるために、一万ゴールドを払ったのに。うーん、さすがエルフだなあ。お金に、ガツガツしてないなあ。なので私はお礼を言って小舟を借りて、沖に出た。


 そして私は竿さおを振って釣りばりを海に投げ入れると、魔法をとなえた。

「魚たちよ、この匂いを感じ取れ! キャッチ・ザ・フィッシュ!」


 するとすぐに竿に、手ごたえがあった。なので竿を振り上げると、一匹の魚が釣れていた。それは二〇センチぐらいの大きさで、背中はうすい緑色で腹部は銀色だった。魚の図鑑ずかんで調べてみると、これはアジという魚だった。


 そしてもちろん食べられるようなので、私は早速刺身さしみで食べてみた。うん、ほどよくあぶらがのっていて濃厚のうこうなうまさがある。うん、美味おいしい。一匹食べて満足した私は、考えた。そうだ! この小舟を貸してくれたエルフにお礼として、アジをあげようと。


 そうして私は魔法を使って五匹のアジを釣って、砂浜に戻った。そして小屋の扉を、ノックした。するとさっきのエルフが、顔を出した。私は金属製のバケツの中を、そのエルフに見せた。

「さっきは小舟を貸してくれて、ありがとうございます。これはほんの、お礼です。受け取ってください」


 そう言ってから、私は気づいた。あ、エルフって、野菜しか食べないのかも? 魚や肉は、食べないのかも? だがそのエルフは、おだやかな表情で聞いてきた。


「おお、これは立派りっぱなアジですね。あなたが釣ったんですか?」

「はい、そうです」

「すごいですね。最近じゃあ、あまり魚は釣れないのに」

「ええ。私は、魔法で釣りました」

「え? 魔法で?」

「はい」


「なるほど……」とつぶやくとそのエルフは、礼を言った。「このアジは、ありがたくいただきます。それと、ちょっと待っててもらえますか」と小屋の中に入っていった。そして少ししてから、再び現れた。

「良かったら、これから夕食を一緒にどうですか? 妻もかまわないと言ってますし」


 へー、このエルフには奥さんがいるんだ。結婚してるんだ。まあカッコいいし性格も良さそうだし、当然か。そして私は、考えた。うーん、夕食を一緒にか。でも夕食はさっき、アジを食べたんだよなあ。と私は考えていると、エルフは更にさそってきた。

「どうぞ一緒いっしょに、食べましょうよ。人間に会うのは久しぶりだし、魔法で魚を釣るという話も詳しく聞きたいし」


 うーん、なるほど。そうか……。それなら少しくらい、いいかな。小舟を貸してもらった、お礼もしたいし。なので私は、その小屋に入った。

「お邪魔じゃましまーす……」


 小屋の中には木製のテーブルと、四つのイスがあった。そのうちの一つには、子供と思われるあどけない表情のエルフが座っていた。そしてその横には、いかにもエルフという、美しい顔立ちの女性のエルフが立っていた。


 そして若いエルフは、紹介を始めた。

「そう言えば、自己紹介もまだでしたね。私はイアサ。この子はノリタ。そして妻の、ナエミです」

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