すいません、魔法使えること黙っていました

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第1話

 科学と魔法は表裏一体の関係であると、バーナード・クリムゾン博士が論文で明らかにしていた。

 実に興味深いと思う。

 科学を推進しているT王国なんかは、魔法体系が及ぼす科学への害悪という論文で、科学を真っ向から否定している。

 逆に魔法を推進しているO帝国なんかは、科学の論理性など、魔法学の前では井の中の蛙大海を知らずだといい、足し算の科学、掛け算の魔法学だと、科学を揶揄している。

 なるほど、たしかにどちらの言い分もわからないでもない。

 だけれども、科学と魔法の関係性をひも解き、お互いの長所と短所を理解し、融合させることが出来たなら、足し算でも掛け算でもない、それは乗算となることを、当時の人々は知らなかった。

 科学と魔法、双方の繁栄の礎を切り拓いたバーナード・クリムゾンですら、己が人生をかけて研究した結果が後世にどれほどの影響をもたらしたか気づかずに去っていった。

 

 そんな世の中の常識をくつがえすのはいつも異端児と呼ばれる選ばれた人間だった。

 これは激動していく世界のなかで、その奔流に飲み込まれ、抗い、立ち向かっていった子供たちの話である。

 


 収穫期を迎え、気色鮮やかに実るトウモロコシ畑のなかを、使い古した農耕器具が往来し、 化石燃料で動く機械は、染みひとつない青空に黒煙を噴き上げていた。

 トウモロコシ畑を一往復するのに一時間ほどかかり、それが何百と畝が広がっていて、まぎれもない重労働だった。

 夏のかんかん照りのなかで、塩を舐めながら水筒の水を飲み、小麦色に灼けた肌は麦わら帽子の無意味さを強調していた。

 トウモロコシを刈り取った後の葉を根元から十本ほどもぎとって、それを地面に寝かせると、大自然あふれるベッドになることを知っている人はいるだろうか。

 少し硬いけれど、背の高いトウモロコシの中にベッドを作ると、これが意外と涼しいのだ。

 さぼる特技は一人前のクロイは誰からも教わることなく、トウモロコシベッドを作って昼寝を満喫していた。

 広大な畑で寝ていても、よもや見つかる訳はないという、大胆かつ呑気な考えだった。

 三十分ほどスヤスヤと心地いい寝息を立てていると、とつぜん頭に衝撃が起こった。

  大好物のスイカをちょうど食べようとしていた夢の中で、まな板にのせた大きなスイカに手を伸ばそうとしたら、スイカがいきなり浮き上がって、クロイの頭に落ちてスイカは割れた。

 そこでクロイは目が覚めた。

 無意識に両手で頭を抱えていて、はじめは自分の頭がスイカみたいに割れたのかと思った。

「起きたか」

 笑いをかみ殺した壮年の声が降ってきた。

 ぎらつく太陽を背にして、クロイの育ての親、ハルツァーはトウモロコシを握っていた。

「トウモロコシって美味しいだけじゃなくて、鈍器にもなるんだね。……って、あんたそれでもトウモロコシ農家か!」

 立ち上がるとクロイのほうが頭一つ分以上背が高い。

 しかし、ハルツァーのほうがクロイの二倍以上体つきが逞しかった。

「がっはっはっは。トウモロコシで殴るなんてそんな勿体ないことできるか。こっちだよこっち」

 左手は手刀の形になっている。

「それってただの暴力だよね~」

「なあに、クーが俺より強くなれば良いだけの話だ。簡単なことだろう」

「まあ、魔法を使えば勝てるけどね」

「ほう、お前はいくつになった」

「歳? 十六だけど」

「まだまだ子供だな。だから自信家にもなるわけだ」

 ハルツァーはにやりと笑った。

 小馬鹿にされたみたいで、クロイはむっとなった。

「十六って言ったら、今の国王様が戴冠された歳じゃないか。りっぱな大人だよ」

「そういう広い世界を生きてきた御方を引き合いに出されてもなあ。クーはただの田舎育ちの世間知らずだ」

「あー、ひどい言い方だね。家出するよ」

「ああ、行ってこい」

「え?」

「だから、もっと広い世の中を見てこいと言っているんだ。つまんないだろう、こんなトウモロコシに囲まれた生活は」

「いや、そんなこともないんだけど」

 正直なところ、クロイは今の生活にかなり満足していた。

 朝は早いし肉体労働ではあるけれど、どんなことがあっても日が暮れる前には作業は終わって、夜は虫や動物の調に囲まれてハルツァーと他愛もない話をするのは悪くない生活だった。

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すいません、魔法使えること黙っていました 8940 @mikamitetsuki

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