第14章 やぁ。こんにちは

ナギの隠れ家がある小島の浅瀬にナギたちは立っていた。

魔女はナギの腕を自身の体に回し、支えるようにして歩く。




「ぐ…」


歩くたびに全身にビキッと激痛が走る。




「私の魔力過給の影響だ。今日はまともに動けんぞ。」




先ほどの泳ぎ。


すさまじい魔力だった。




しかしそれでも黒龍には及ばない。


何よりあのサイズ。そして大群。


ナギは今になって身震いした。


「あんたが解放されて…黒龍はどうなるんだ」




ナギは息も絶え絶えに声を絞り出す。




「まだ大丈夫だ。黒海に侵入しない限り害はない。」


「今はそれより身体を回復…」




魔女はそこまで言って口をつぐみ、前を見つめた。

ナギもつられてその視線の先を追うと——




目の前にはエイルが立っていた。




「…」




エイルは歯ブラシを口に突っ込んだまま目を見開いている。




(…こいつ…今起きたのか!?)




「もがが!?ままっ…ま…まも!!?」







静寂。


魔女もナギも引いていた。


なぜそれで通じていると思えるのか。




エイルは「ハッ」とし


べっ!と口の液体を吐き出す。




「ままままさか…まさか本当に…まままま魔女…様?」


エイルは震える指で魔女を指す。




魔女はふっと微笑んでいった。


「やぁ。こんにちは」








グリナス宮殿ではパニックが起きていた。


黒龍の活動に伴い都市は停電。


エルグが黒龍への攻撃に備えるためだ。


廷内は出遅れた開戦に対応するような騒動だった。




「誰か説明しろ……あの黒龍が、なぜ動いた!? 魔女は……まだ封印されていたはずだろう!!」




声を荒げるグリナス。


慌てて秘書が入室してくる


「グリナス様!魔女が!魔女がいません!完全に、姿が消えました……!」




グリナスの顔が青ざめ


手に持っていたグラスを落とした。






一方。




海が一望できるエルグの居城


その屋上では


轟音が鳴っていた。


周囲に人影はなく、そこに立つのはエルグただ一人。

青く光る目が虚空を見つめ、宙を静かに漂っている。

地鳴りが大地を揺らし、電撃が空気を震わせていた。




エルグの塔は緊急停止状態。巨大な魔力変換炉は沈黙し、ただ風が吹き抜けていた。




彼は全魔力を自らの内部に戻し、ひと息の間もなく、迫りくる戦いに備えて力を蓄えていた。

都市全体のエネルギーを賄えるほどの電撃——


それが今、たった一人の体内でうねり、渦を巻いている。


だが奇妙なことに、先ほどまで遠方で暴れていたとされる黒龍は、エルグの到着以降、まるで嘘だったかのように、沈黙していた。




(一時的に落ち着いたのか?)


(しかし、こうも変化が激しいと攻撃態勢と発電の切り替えが間に合わぬ…)


(都市の発電も頻繁には止められん!)




エルグの現実的な焦り。




またしてもキュリアの能力に嫉妬する。


あいつはいつだって“事後対応“だ


壊れたら治すだけ。


戦う責任もない。




三人の中で最も富を築いたエルグだったが、日々感じていた不満がさらに濃くなったことを実感した。

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