第4話:文化祭当日

朝の空は澄み切った秋晴れ。校門をくぐると、すでに大勢の来場者でごった返している。風船が空に舞い、焼きそばの匂いが漂い、どこからかポップコーンの甘い香り。桜ヶ丘高校は今日だけ、まるでテーマパークだ。

私はメイド服に袖を通し、鏡の前でため息をついた。黒のワンピースに白のエプロン、頭にはフリルのカチューシャ。スカートは膝上15センチ。恥ずかしい。でも、美咲が「絶対似合う!」って言ったし、優花も「素敵です……」って目を潤ませていたから、着ることにした。

「ご主人様、お帰りなさいませ」

練習で言ってみる。声が裏返る。ダメだ、照れくさい。

教室に入ると、もう大騒ぎ。男子は執事服、女子はメイド服。美咲はミニスカートのメイド服で、脚が眩しい。優花はロングスカートのメイド服で、眼鏡の奥が少し赤い。

「あかりー! 遅い! もう開店5分前だよ!」

美咲が私の手を引いて、案内係の位置へ。優花は裏方で、お茶を淹れている。

「ご主人様、いらっしゃいませ! こちらへどうぞ」

私はぎこちなくお辞儀。最初のお客さんは、近所の小学生。目を丸くして、

「メイドさん、可愛い!」

頰が熱くなる。でも、笑顔で席に案内する。

午前中は大盛況。注文が飛び交い、トレイを持つ手が震える。美咲はテキパキ動き、笑顔で接客。私は少し遅れがち。優花は裏方で、紅茶を丁寧に淹れてくれる。

「あかりさん、ダージリンとアッサム、どっちがいいですか?」

「えっと……ダージリンで」

優花は小さく頷いて、ティーポットを傾ける。香りがふわりと立ち上る。

休憩時間。裏の準備室で、三人でサンドイッチを頬張る。

「疲れた……」

私は机に突っ伏す。美咲が私の背中をさすって、

「でも、めっちゃ可愛いよ。あかりのメイド姿、SNSに上げたい」

「ダメ! 絶対ダメ!」

優花が小さく笑って、

「あかりさん、頰が赤いです。……私も、写真撮りたいです」

「二人とも、からかわないで」

午後。ピークタイム。行列ができる。美咲が大声で、

「次の方、どうぞ!」

私はトレイを抱えて、テーブルを回る。すると、突然ニコニコの小学生が、

「メイドさん、写真撮っていい?」

「え、いいけど……」

美咲が割り込んで、

「私も一緒に!」

三人でピースサイン。優花が後ろから、

「あかりさん、私も……」

でも、優花は恥ずかしそうに後ろに下がる。

夕方。閉店間際。最後のお客さんを見送り、教室は静かになる。私は椅子に座り込んで、足をさする。

「もう、動けない……」

美咲が私の隣に座って、

「お疲れ。あかり、今日は最高だったよ」

優花が紅茶を運んできて、

「あかりさん、温かいお茶、どうぞ」

三人で並んで飲む。窓の外、夕陽がオレンジに染まる。

「文化祭、楽しかったね」

私は呟く。美咲が私の手を握って、

「うん。でも、まだ終わってないよ。夜の後夜祭、打ち上げあるじゃん」

優花が小さく、

「あかりさん、私も……一緒に、いいですか?」

「もちろん。みんなで」

後夜祭。校庭でキャンプファイヤー。炎が揺れ、みんなで輪になって歌う。私は美咲と優花の間に座る。火の粉が舞い、星が瞬く。

美咲が私の耳元で囁く。

「あかり、今日のメイド姿、ずっと見てた」

優花が反対側から、

「あかりさん、私も……」

二人の声が重なる。私は首を傾げて、

「え、なに?」

でも、二人は黙ったまま。炎が顔を赤く染める。

打ち上げは近くのファミレス。クラスメイト全員で大騒ぎ。私は美咲と優花に挟まれて、パフェをシェアする。

「一口ちょうだい」

美咲がスプーンを差し出す。私は口を開ける。甘い。

優花が、

「あかりさん、私も……」

恥ずかしそうにスプーンを差し出す。私は頷いて、食べる。

帰り道。夜風が冷たい。三人で歩く。

「あかり、今日はありがとう」

「うん、私も楽しかった」

優花が小さく、

「あかりさん、また……一緒に、いたいです」

家に着いて、ベッドに倒れ込む。メイド服を脱いで、鏡を見る。頰がまだ熱い。文化祭、楽しかった。美咲の笑顔、優花の優しさ。どっちも、大事。

スマホを見ると、LINE。

美咲から。

『今日のあかり、最高だった。またデートしよう♡』

優花から。

『あかりさん、ありがとう。ずっと、そばにいたいです。おやすみなさい』

私は返信して、目を閉じる。胸がどきどきする。でも、理由はわからない。文化祭の余韻かな。

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