GYT-014 フェアリー草

【 ギルド管理番号 】 GYT-014


【 通称 】フェアリー草 / 魔力酩酊の青草マナ・ドランク・グラス / 偽りの灯火草フェイク・ルミナス


【 脅威レベル 】 等級:緑 (Green)

 本植物は、枯渇した魔力を即座に回復させるという極めて有益な効能を持つ反面、採取時の致死的な幻覚作用と、既存の安全な植物との誤認リスクが高い。知識なき者が扱えば遭難や精神崩壊を招くため、十分な警戒が必要である。


【 概要 】

「フェアリー草」は、ラミニスタ大陸の深部原生林や、ゴンドワルナ大陸の大スピシディア森林における高濃度魔力地帯にのみ自生する希少植物である 。 夜間に淡く青い光を放つその姿は、一見すると無害な発光植物「ルミナス草」と瓜二つである 。しかし、その本質は捕食性の魔性植物であり、芳香と花粉を用いて知的生命体を誘引し、その精神を甘美な幻覚の中に閉じ込め、養分として吸収する。 近年、冒険者の間で「飲むだけで魔力が全快する奇跡の草」として噂が広がっているが、正しく処理されずに摂取された場合の危険性は周知されていない。


【 識別特徴 】

 外見は一般的な「ルミナス草」と酷似しており、薄い硝子細工のような葉が青白く発光する 。 決定的な識別点は「光の明滅」である。ルミナス草の光が一定であるのに対し、フェアリー草の光は近づいた獲物の心拍数に共鳴して、ゆっくりと脈打つように明滅する。この微細な差異を見落とし、ルミナス草だと思い込んで手を伸ばした新米冒険者が犠牲となるケースが後を絶たない。


 フェアリー草は熟した果実と雨上がりの土を混ぜたような、抗いがたい甘美な芳香を放つ。 また群生地に近づくと、鈴を転がしたような音や、愛しい人の呼ぶ声(妖精の囁きピクシー・ウィスパー)が聞こえ始めるという報告もなされている。


【 生態および能力 】

 本種が放出する幻覚性花粉は、吸引者の脳内にある「最も強い願望」や「理想」を読み取り、それを現実として誤認させる強力な精神干渉作用を持つ。 金銭欲の強い者は黄金の山を、愛欲に飢えた者は理想のハーレムを、名誉を求める者は称賛の嵐を見る。この「心地よい悪夢」こそが、遭難者が死の瞬間まで満面の笑みを浮かべ続ける理由である。葉液には高純度の魔力が濃縮されており、摂取すれば即座に魔力が回復する。しかし、生食や過剰摂取は魔力回路の暴走(魔力酩酊)を引き起こし、一時的な全能感と共に魔法を暴発させ、自爆に至る危険性がある。


【 遭遇時対応 】

 視覚確認の徹底: 発光する草を発見した場合、即座に採取せず、数秒間静止して「光が脈打っていないか」を確認すること。 ドワーフ製の浄化マスク、または濡らした布の複数枚重ねが必須である。風魔法による空気清浄結界も有効。


❖ 安全な加工法

 生食は厳禁。 近年、異世界の知識を持つ「グレイベア地下帝国」の関係者によって確立された加工法が存在する 。 葉を摘み取った後、高温で蒸して酵素を止め、揉んでから乾燥させ、最後に焙煎することにより幻覚成分のみが揮発し、安全かつ高品質な魔力回復茶として利用可能となる。


【 過去のインシデント記録 】

インシデント-X88 (カザン王国首都)

 ある下級貴族の屋敷から「美少女メイド隊に奉仕されている」といううわ言が聞こえるとの通報あり。突入した衛兵が見たのは、大量の未処理フェアリー草を焚き、薄汚れたゴブリンの群れを美女と思い込んで侍らせていた貴族の姿であった。彼は保護された後も「あの楽園に帰せ」と泣き叫んでいるという。


インシデント-F04 (護衛艦フワデラ周辺)

 秘密結社「女王様の近衛兵団」に所属する一部の熱狂的信者が、自ら進んで花粉を吸引しようとした事案 。 「花粉を吸えば、平野女王陛下に冷たい目で見下され、おみ足で踏まれる幻覚が見えるらしい」という根拠不明の噂を信じたための奇行であったが、即座に水陸機動隊員により鎮圧された。


【 ギルド調査員からの注記 】

 見た目は綺麗な花ほど毒がある、というのは植物学の基本にして真理です。 特に、私の教え子たち(エ・ダジーマの生徒諸君)には厳重に忠告しておきます 。 楽をして魔力を得ようなどと考えないこと。あなたたちの先輩であるキース君が開発した衛生用品のように、地道な研究と工夫こそが力になります 。魔力が欲しいなら、グレイベア村の「ルミナスグレイン」を食べて、しっかり寝るのが一番の近道です 。 もし授業をサボって、興味本位でこの草に手を出した生徒がいたら……フフッ。 幻覚よりも恐ろしい「補習」が待っていると思ってくださいね?

 

―― 勇者支援学校エ・ダジーマ教諭 シュモネー・メトシェラ

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