GYT-013 大河蟹

【 ギルド管理番号 】 GYT-013


【 通称 】大河蟹 / 河畔の処刑人 / 堅牢なる美食


【 脅威レベル 】 黄 (Yellow)

  物理攻撃をほぼ無効化する装甲と、装備を破壊する特殊能力を持つため。重装備の騎士ほど相性が悪く、また殻を破壊する手段が限られるため、討伐難易度が極めて高い。


【 概要 】

 フィルモサーナ大陸西部、メジャイ王国を貫く大河や、アシハブア王国の湿地帯、さらにはドラン新公国近郊の渓流に潜む超大型の甲殻類。 岩に擬態して獲物を待ち、通りがかった生物を、その自重と鋏の力で水底へ引きずり込む。 メジャイの古代遺跡周辺では「川の守り神の使い」として畏怖される一方、その殻の下にある身は王侯貴族さえも唸らせる至高の珍味とされている。しかし、その殻を割ることは「城壁を崩す」に等しく、食卓に並ぶことは稀である。


【 識別特徴 】

 全身が暗緑色の苔むした岩のような甲羅で覆われている。濁り水の中では、完全に周囲の岩石と同化する。「カチ……カチ……」という、石同士をぶつけたような乾いた音を発する。このリズムが早くなった時、それは捕食攻撃の合図である。また、その口吻から絶えず白濁した泡を噴出しているが、この泡は独特の鉄錆の臭気を伴う。


【 生態および能力 】

  最大の脅威は、口から吐き出す酸化腐食泡と呼ばれる泡である。これに含まれる酵素は鉄を一瞬で赤錆に変える性質を持つ。鍛え上げられた鋼であっても、この泡を浴びれば数分でボロボロの鉄屑と化す。冒険者にとって恐ろしい「装備ロスト」を招く悪夢の能力であろう。また甲羅の強度はドワーフ鋼に匹敵し、生半可な打撃や斬撃を全て弾き返す。魔法防御力も高く、特に火属性は水辺の環境も相まって効果が薄い。成人の胴体ほどもある巨大な鋏は、錆びついて脆くなった鎧を豆腐のように切断する。


【 遭遇時対応プロトコル 】

 泡を浴びた場合、装備を惜しんで躊躇してはならない。人体に浴びると皮膚がただれてしまう。また物理的な破壊は困難である。水棲生物の弱点である「雷属性」魔法で内部から焼き尽くすか、関節の隙間を狙う刺突攻撃が推奨される。水辺で規則的なクリック音が聞こえた場合、直ちにその場から離脱することを推奨している。


【 過去のインシデント記録 】

記録ID: FL-220「裸の白銀騎士団」 アシハブア王国の精鋭「白銀騎士団」の一小隊が、湿地帯の調査中に遭遇。全員が無事生還したが、その自慢の白銀の鎧は全て赤錆の塊となり、全員が下着姿で帰還するという屈辱的な結末を迎えた。


記録ID: FL-34X「ドランの黒い狙撃手」 ドラン新公国近郊の沢にて、マサヒトと呼ばれる黒髪の青年が遭遇した事例。目撃者によると、青年は長い筒状の武器(三八式精霊銃と推測される)を使用。泡を吐こうと開いた口の中に「火」と「水」の精霊力を込めた特殊な矢を撃ち込み、内部から水蒸気爆発を起こして一撃で沈黙させたという。その後、鹵獲された個体は綺麗に解体され、鍋の具材になっていたとの報告あり。


記録ID: FL-405「食への執念」 護衛艦フワデラ の補給部隊(通称:緑の服の集団)が、トラックの荷台一杯に本個体を積載しているのが目撃された。彼らは戦闘用ではなく土木工事用の「油圧カッター」や「削岩機」を持ち出し、まるで鉱山採掘のように殻を割り、身を取り出していた。「カニ食うためならエンヤコラ」という謎の掛け声が確認されている。


【 ギルド調査員からの注記 】

 この魔物の身は、弾力がありながらも口の中でほどける繊維質と、濃厚な甘みを持つ。カザン王国の宮廷料理人ですら「殻を割るのに半日かかる」と嘆く代物だが、護衛艦フワデラの食堂では、毎週金曜の「カレー」の具材(シーフードカレー)として頻繁に提供されていたらしい。


 今はもう帝国世界へ帰還された、ヒラノ女王様にまつわる伝説がある。彼女はこのカニの蒸し料理が出た時だけは、無言でカニの殻剥きに没頭し、話しかけても反応しなくなったという。「カニを食べている時だけは、ヒラノもエロい声は出さず無口になる」とはタカツ艦長が遺した金言。実際、ヒラノ女王様の食後の皿には山のような殻が積み上げられていたそうだ。

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