第36話 淫乱コンビ?

「ちょっと待て!お前今なんて言った?」


 ニアが青ざめた顔でセラを問い詰める。カナデに至っては完全に硬直している。


「……だから、男性と男性と交配して子孫を残す。カナデの魔力と、適切な男性の遺伝子があれば可能」


 再度同じことを言うセラ。どうやら聞き間違いではなかったようだ。


「えっと……つまり誰かと結婚して子供を作るってか?」

「……そう」

「吸血鬼の男と?」

「純血の吸血鬼は私だけ。だから別の種族とでも……」


 待て待て待て。いくら何でも唐突すぎる展開だ。吸血鬼の血を濃く受け継いだカナデが他の種族との交配で子孫を作るというのか。


 俺とニア、そして爺さんの目は当然カナデに向かった。


「わたしじゃないよ!?」

「いや、カナデ以外に選択肢はなかっただろ。今の流れだと」

「違うよ!わたしはただ協力するだけで結婚とか子供とかそんなの……!」


 カナデが必死に否定する。つまりなんだ、こいつはろくに説明も聞かずにセラに同情しただけの無鉄砲だったということか?

 ……いやアホだろ。


「心配ない。魔力さえ貰えれば交配は私がする。カナデは協力者」


 セラなりに配慮してくれているようだが、根本的な解決にはなっていない。どちらにしても誰かと子孫を残すという事実に変わりはないのだ。


「あ、あのさセラ……それって誰でもいいの?」

「条件はある。最低でも魔力保持者。できれば吸血鬼と相性の良い種族」


 それはまあなんとも普通の……いや普通じゃないか。


「じゃあセラが選ぶのか?」

「……理想はある」

「どんな奴だ?」


 セラがじっと俺を見つめる。まさか……と思った瞬間、カナデが割って入った。


「わ、わたし協力する!血じゃなくて魔力なら大丈夫だと思うし!」

「……良いの?」

「うん!ついでにセラのお婿さんも探してあげるよ!」


 何を言ってるんだこのアホは。だがセラは意外にも喜んでいる。


「ありがとう……カナデ」

「じゃあ決まりだね!どこに住んでるの?わたしも行くよ!」


 カナデがセラの手を握る。爺さんとニアは呆然としている。もうアホらしくてついて行けん。

 

「……二日もあればつく。眷属達が待ってる」

「わかった!必要なものがあれば持っていこう。何かあるかな?」

「……カナデがいれば十分」

「そっか。じゃあ早速準備するね」


 もうどうにでもなれ。この無自覚なアホと幼女吸血鬼のコンビに巻き込まれないよう祈るしかない。


「おいおい、オレまだぜんぜん飲み込めてないんだけど……」

「あれに混ざりたいか?ニア」

「……勘弁してくれ」


 ニアが力なく答える。俺も同感だ。爺さんも諦めたように溜息をついていた。どうやらカナデの暴走を止めることはできないと悟ったらしい。


「俺は寝るわ。カナデ、よくわからんけど吸血鬼の未来の為に頑張れよ。応援してるぞ」

「ミ〜ナ〜ト〜さぁ〜ん?まさかカナデちゃんを一人で吸血鬼の里なんて場所に行かせるつもりじゃないですよねぇ〜?」

「そのつもりだが?」

「へー……そう。わたしの頼みは聞いてくれないんだ……へ〜」


 笑顔で睨んでくる。命が危険ならともかく、明らかに好奇心と使命感で動いてるカナデに付き合う義理はない。


「可愛い幼馴染が異種族の子作りの手伝いをするんですよ?ここは男らしく一肌脱いでくださいな♪」

「そんな性欲の塊の淫乱コンビと同行なんてお断りだ。セラと二人で楽しんでこい」

「だ・れ・が淫乱ですか!?しかも性欲の塊!?わたしにどんなイメージ持ってんの!?」


 カナデが拳を握って怒鳴り散らす。ニアはどうやらツボったようで爆笑していた。爺さんは呆れたように首を振っている。


「カナデ、やっぱり彼の協力は必要」

「うん、でもどうしよう。ミナト、いつもこうなんだよね。本当に危ない時にしか動いてくれないっていうか」

「それ以外に彼をその気にさせるには?」

「えっと……利害の一致?かな。でもミナトにとってメリットはないと思うんだよね」

 

 二人で何やら相談し始めた。厄介なことにならなければいいが。


「私に任せて」


 何やら意味深な事を言い出すセラ。無表情のまま俺に近づいてくる。


「……ミナト、あなたは何を求めてる?」

「は?」

「私は子作りが必要。でも今のままでは無理。あなたの協力が不可欠」


 セラの真剣な眼差しに言葉に詰まる。こいつは何を言ってるんだ?まさか本当に俺と子作りする気じゃないだろうな……。


「私の目的は答えた。次はあなたが答えて。何を求めてる?」

「俺か?そうだな……」


 答えに悩む。転生してから、俺はずっと魔力の鍛錬に費やして来た。それはあのヤンデレ妹とのトラウマから解放される為。

 そして今、あいつはこの世界にいる。再び同じ過ちを繰り返さない為に──


「強さだな。誰にでも勝てる力。それが欲しい」

「なら利害は一致する。吸血鬼の魔力は強大。協力すれば更なる力を手に入れられる」

「カナデが?」

「違う。あなたが」


 話が見えない。カナデと爺さんも困惑顔だ。ニアだけが面白そうな顔で見ている。


「吸血鬼の血と魔力、あなたにはそれを提供する。引き換えに私たちの計画を手伝って」

「……本気か?お前自身が協力しろと言ってるのか?」


 セラが頷く。その目には強い決意が宿っていた。


「本来、吸血鬼と人の血は決して混ざることはない。すぐに魔力暴走を起こし、最終的には死に至る」

「物騒だな。俺に死ねって言うのか?」

「違う。あなたには莫大な魔力量とそれをコントロール出来るだけの才がある。きっと成功する。私が保証する」

「確率は?」

「89%」


 まさかのほぼ九割。さっきまで六割半と言ってたのに俺になると格段に上がるな。何かのバグだろうか?


「血を入れる方向は?まさかとは思うが、カナデやセラと……」

「その通り。性行為による方法が最も確実」


 思わず絶句。カナデとか完全に赤面してあたふたしている。爺さんは血圧が上がりそうなくらい顔を真っ赤にしている。ニアだけが興味津々といった様子だ。


「しかし強制はしない。あなたの望みを叶えるだけなら首を噛むか注射をすれば済む。ただし、確率は85──」

「あ、ならそれで頼むわ」


 セラが言い終わる前に承諾する。いや、最初から当然の選択だ。カナデとの性交渉などあり得ないし、セラなんかは論外だ。


「なら、力を貸してくれる?」

「そういうことならな。交渉成立だ」

「え?マジかおまえ」


 ニアが信じられないものを見るような目で見てくる。爺さんは頭を抱えている。一方のカナデはというと……。 


「なんか複雑だなー。ミナト、わたしの安全より強くなりたい欲の方が優先ってこと?」

「そう言うなよ、望み通りついて行ってやるんだしいいだろ。カナデも強くなれるかも知れないぞ?」

「そうだけど、なんかなぁ……」


 カナデは納得していない様子だが、俺の決断が覆らないことを悟ると溜息をついた。


「出発は明日でいいんだろ?爺さん、許可もらえるか?」

「……好きにしろ。ワシはもう知らん」


 爺さんが諦めたように呟く。せっかくの連休を台無しにしたのは申し訳ないが……。


「そうだ。ニアはどうする?わたし達についてくる?」

「あ?行くわけねーだろ。大体オレはこのガキに不意打ちくらってんだぞ!?んなヤツと旅とかありえねーだろ」

「ごめんなさい。でもあのくらいの攻撃は避けるべき」

「謝ってんのか貶してんのかどっちだテメェ!?」


 ニアとセラの間に入り仲裁するカナデ。

 こうして、俺の休暇は吸血鬼とそのハーフとの旅という奇妙なものに変わっていくのだった。

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ヤンデレ妹に耐えられず自殺した俺。念願だった魔力のある異世界に転生するもトラウマを忘れられず、現実逃避で鍛え続ける! ロロン @jmdw

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