特別
その従者は、お嬢様の髪を梳かす時、
決して目を合わさない。
だからお嬢様は安心して、鏡越しに
心ゆくまま従者をじっと見つめていられる。
「貴方は誰にでも優しいのね。」
朝の光を浴びた豊かな黒髪が、ゆらゆらと光る。
キラキラと光る目の、優雅で高貴な獣のような少女。
「そうでしょうか。」
波を一筋、掬い上げる。ガラスのように冷たく透明な、色素の薄い従者。
「きっと、お姉さまが頼めば、お姉様の髪も梳かすのでしょう?」
「仕事ですから。」
その細い束を、丁寧に梳かす。
「つまらないわ。私だけの特別はないの。」
子供っぽく、口を尖らせる。
「お嬢様は、ずっと特別ですよ。」
丁寧に編み込む。
「最近、冷たくはない?」
ピンで止める。
「特別すぎてもいけないのです。」
また別の波を掬い取る。
「私は特別すぎてもいいの。特別すぎる方がいいの。」
ピンが、カチリと鳴った。従者は静かに微笑む。
「……お嬢様。お嬢様は、世間知らずです。」
きっちりと髪を結い上げる。
「お嬢様、今日もお綺麗です。」
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