鷹山莉子の場合(6)
「莉子ぉぉ~~っ、言ったよな俺? 絶対殺すって……」
「ひぃぃ~~っ、ごめんなさい! い゛だぁ⁉ やめで!」
「いいのあんじゃねーか、すぐぶち殺そうと思ったが
着替え室の先にある診療室。
髪を乱暴に掴まれ、内診台に無理やり乗せられた。
ズボンを無理やり脱がされ、パンツを引き裂かれる。
「じゃあ、一度天国を見てから逝けや!」
「いやぁぁぁぁぁ!」
「──うぐっ」
挿れられる瞬間、旦那が莉子にもたれ掛かるよう倒れた。
旦那の後ろに立っていたのは、深町。
その手に持っているのは、スタンガンと思しきもの。
「ふぅ~海外製のスタンガンはやはり段違いですね。──これでよし。旦那さん、しぶとそうですから、普通の人なら致死量くらいは打っておきましょう」
旦那が痺れている間に両手、両足に手錠をかけて、首に注射を打った。
「てっ、てめー、ムゴムゴ」
「おっと、大きな声を出すのは慎んでもらいたい」
縄で口を塞ぐ。
麻酔と思しき注射の効果が出るまで数分かかったが、旦那がおとなしくなった。
「鷹山さんを囮にしてすみませんでした。野生の肉食獣が最も油断するのは
莉子に説明しながら、旦那の倒れた横に大きな布を広げている。
「この後、どうするんですか?」
「ご心配は無用です。この後ヤクザの皆さんが、しっかり消してくれますよ」
組員2名を射殺した旦那には、ヤクザが高額の懸賞金を掛けていたそうだ。
死体の場合は1億。生きたまま引き渡したら5億円が払われるらしい。
裏社会の住人たちが利用する闇サイト上で、懸賞金が掲載された以降、こうなるのは必然だったという。
受付の女性から下着も含めて着替えを手渡された。
隣の部屋で着替えてみると寸分違わず、莉子のサイズだったので、少しだけ背筋が冷たくなった。
「じゃあ、ふたりでそちらを持ってください。──そう」
用意した大きな布の上に旦那を転がして、受付役の女性も手伝って3人でストレッチャーに乗せた。
ストレッチャーに乗せた旦那に布を被せて、産婦人科医院の裏口に運び、扉を開けると救急車が停まっており、救急隊員が旦那を乗せたストレッチャーを救急車に運び込んだ。
──ん。
真っ暗だ。
いや、黒い布を被せられてる?
周囲が確認できないが、寝かされた状態で万歳する恰好で両手両足を拘束されている。
「目が覚めたか?」
やはり黒い袋を頭に被せられていた。
袋が取られたのでようやく状況が把握できた。
密閉された、天井から床、壁まですべて真っ白な部屋。
鉄製の無機質な台に乗せられ、緑色の手術服を着た男が二人。
そして声を掛けてきたであろう黒い服を着た男が、木製の椅子を背もたれ側に跨いで逆に座る形で腰かけ、こちらを見ていた。
「●●さんの礼は、きっちりお前のカラダで払ってもらう」
なにもしゃべらない。
普段なら威勢よく恫喝して相手を萎縮させて主導権を握るが、相手は明らかに普通ではない。こんなに冷たく人を見ることができるなんて、そこら辺のヤクザよりもはるかに恐ろしい存在。
「今からお前の臓器を
何個抜かれた時点で死ぬかをモニター越しに大勢の人間が賭けているそうだ。
俺よりも狂ってやがる。
「じゃあ手始めに腎臓を1個」
「あ゛ぁあ゛ああああ゛ーーーーっ」
ダメだ。
俺はもうここで…………。
「その映像を見たんですか?」
「ええ、すっきりしたわ」
花村沙織が顔を引き攣らせている。
リアルタイムではなかったが、後でそばに座っている御子に見せてもらった。
旦那に掛かっていた懸賞金はすべて莉子が受け取ることになった。
だが、あまりにも大金だし、表面上は旦那は逃走中ということになっている。警察の目はいまだに莉子に張り付いていると思った方がいいと言われ、懸賞金のほとんどは御子に預けている。
「ところで……」
鑑 日葵が不思議そうに莉子に質問した。
「旦那さんの名前は?」
鷹山莉子は、皿に乗っていた小分けされたチーズが口の中で溶け切るのを待って、一呼吸して答えた。
「旦那の名前? さあ、忘れたわ。旦那は旦那よ……」
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