異物の家族の向かう先

鮭おむすび

序章

──


「はぁっ、はぁっ、はっ………」

 逃げなければ。逃げなければ。

「──っ!?行き、止まり………!?」

 逃げなければ。逃げなければ。

「ぅ、わっ………く、来るな………!!!」

 一体、何から?

「うああああああああああああああああ!!!!」

 それは──────



「っ!?」

 慌てて上半身を起こす。

 あ、れ、今のってもしかして……

「ゆめ………?」

 夢だったのだろうか。でも、やけに現実味があったような──

「……おにい、様……?」

「ルター……」

 妹が、横でのそりとベッドから起き上がった。

「何か、うなされていたようでしたけど……」

「……大丈夫です。心配する程ではありませんよ」

 そう言い、駆け寄ってきた彼女の頭を撫でる。

「さあ、朝食の時間でしょう?早く行かないと、お父様に叱られてしまいますよ」

「……は、い……」

 どうかゆっくりお休みになって、と心配そうな顔を残し、ルターは部屋を後にした。


 彼女を見送り、はたと横たわる自分の体を眺める。

 起きてしっかり覚醒しても、心が何か釈然としなかった。

 鏡を見る。いつもの自分の顔だ。少し窶れた、青年の。

 手を見る。いつもの自分の手だ。細く筋張った、病人の。

 窓の外を見る。いつもの森だ。


 僕ら以外、誰もいない。

 誰も、来てはいけない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異物の家族の向かう先 鮭おむすび @4989__imn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ