2-7

 到着したのは訓練場。

 しかし始めるは自己紹介。

 すまないとは思うが、召喚された直後はパニック状態でもあったので、聞いていなかったのは許してほしい。


「我は『堅牢のアーシダ』だ」


 そう言って名乗ったのはベリーショートの銀髪に褐色……とまではいかないまでも、濃い目の小麦色の肌をした長身の女性。

 キリっとした顔つきで「クールなできるお姉さん」というのが第一印象。

 堅牢という割には鎧ではなく普通の衣服にしか見えない姿である。

 ただ、色々な服を重ね着しているようで、色彩豊かな格好をしている。


「『古き魔手のリアディ』よ」


 見た目が完全にRPGに出てくる女魔法使い。

 ウィッチハットにドレスローブのスタイル抜群の美女である。

 気怠そうな雰囲気がどちらかと言えば「魔女」っぽさを感じる女性であり、今も癖のある茶髪を指で巻いている。

 ちなみにアタッカーではなく、ヒーラー……というより「外科医」に相当する役割らしい。

「その見た目でかよ」と言いたくなるが、彼女の「古き魔手」とはあちらの世界ではとっくに廃れた魔法医療を指すらしく、魔力と魔法を用いて素手で外科手術も可能と言う。

 本質は研究者なので戦いは不得手であり、職員への移行も検討中とのことである。

 次は誰の名前を聞こうと思ったところで青い髪の少女と目が合った。

 

「『お散歩要塞』」


「……名前は?」


 不意を突いてきた二つ名に噴き出しかけたが、俺は何とか耐えて名前を聞く。

「ケイ」と小さな声で名乗った真っ白な服の小さな少女はそれっきり何も喋らなくなる。

 相当無口らしく、代わりにレダが簡単に彼女の力を説明する。

 曰く「歩く要塞。陣地を構築してアーシダと合わせれば鉄壁」とのことである。

 役割が被っているかと思いきや、相乗効果でちゃんと機能しているらしい。

 彼女たちの中に負傷者がほとんど出ていないのはこれが理由のようだ。


「『千里の魔弾ウィーネリフェルト』」


 明らかに不機嫌な金髪ロングヘアの美女。

 聞けば彼女はスナイパーであり、使用する武器もライフルとあって俺と被りまくっているご様子。

 しかし、弾を一発一発自分の魔力で生成して使用しているため、約四十秒に一度しか射撃できない。

 DPSが低すぎるが故に比較対象となるらしく、有効射程でも負けているので存在意義が問われる事態となっているようだ。

 この件に関しては「彼女、自分に厳しいだけだから気にしないで」とレダに耳打ちされて事情を察した。

 エデンや他の英霊が、ではなく、彼女の自身がそう思っているだけとのことだ。

 ちなみに攻撃力自体はかなり高いが、弾丸が魔力のためか威力の減衰が激しく、人間相手ならば問題ない狙撃も、デペス相手に射程ギリギリの距離では効果が薄いそうだ。

 寒がりなのか雪国にでもいるかのようなもこもこの恰好をしている。


「アタイとジョニーは紹介不要だね」


 レダの言葉に俺は頷く。

「私もですね」とレイメルが続くとまだ自己紹介していない最後の一人をレダが肘で突いた。


「それでは最後は私が……『氷炎の美姫アネストレイヤ』。ああ、ファミリーネームは名乗りませんわ。ここでは無意味ですもの」


 優雅に礼をする美女だが、二つ名に「姫」が入っているということはどこかのお姫様ということか?

 氷と炎を得意とする魔法使いかと思ったが、使えるのはどちらか片方のみであり、使用属性を切り替える際はモードを変更する必要があるとのこと。

 変身でもするのかと思ったところ実演してくれるらしく、ゴージャスな金髪を背中へと流す。

 直後、彼女の足元から炎が吹き上がったかと思えば、身に纏う白のドレスが鮮やかな赤へと変化し、見事な金髪も深紅へと変貌する。


(色が変わった……というより作り変えられた、のように見えたが……)


 実際肌色や下着の色っぽい黒が見えていたので、多分正解だと思われる。

 俺は感心したように「ほー」と声を出して小さく拍手。


「馬鹿にしてますの?」


「いや、子供の頃はこういう変身に憧れたな、と思い出してな」


 俺の言葉に納得したのか、次は氷の形態も見せてくれた。

 こちらは全体的に深い青色で、モード変化は何処からでも可能とのことである。

 元の状態に戻ったアネストレイヤが「こんなものよ」と再び金髪を背中へと流す。

 変身シーンを見て思ったのだが、結構エグイ下着を着用していらっしゃる。

 余程スタイルに自信があるようだが、実際素晴らしいと思うので何も言えない。

 ということで最後に俺が一言言って締め括る。


「スコール1だ。戦術として興味が出たから試験的に行う。本格的な運用は諦めてくれ」


 そう言うと一部からブーイングが出たが、現状では武器の貸出で戦果に換算されないことに加え、自身の戦力低下と俺にメリットが一切ないことを話して黙らせる。

「ではメリットがあればいいんですね」とレイメルが俺の腕を抱え込んでくるが……それはスコール1のキャラではないのでダメです。

 見た目が神官っぽいのに真っ先に色仕掛けに出るとか、そちらの教義はどうなっているのか?

 あと魔女っぽい魔法使い、さりげなくちびっ子をそっと前に出すな、そんな趣味もないんだよ。

「ダメかー」と言って諦めた振りをして胸元を指で下しておっぱい見せてもダメです。

 職員になる予定だったら諦めてそっち行け、と言ったらどうやらポイントで欲しい物があるらしい。


「いやね、ここのデータって技術的なものは無料で見れるんだけど、趣味側と判定されてる情報は有料なんだよ」


 目的の情報が有料なのでできる限りこっちで稼いでから移りたい、と言って大きな溜息を吐くリアディ。

 職員と英霊とではポイントの入手難度がまったく違うらしく、エデンで働く人にはポイントではなくデータ通貨で給料が支払われているとのことである。

 それでは目的の技術を閲覧するまでに時間がかかりすぎるので、こうやって何とかしてポイントを稼ごうとしているそうだ。


「世知辛い」


 無口なちびっ子の一言に何人かが頷いた。

 そんなわけで自己紹介を終えた次は現状の戦術である。

 現在アーシダとケイの二重防御を見せてもらっているのだが……一言で言えば「どこでもトーチカ」である。

 ケイが周囲の地形を操作して防衛陣地を即時作成。

 そこからアーシダの衣服が弾け飛び、陣地周囲に展開しての自動防御。

 バッキバキに割れた腹筋を見せつけるかの如く、半裸のアーシダが「どうだ」と言わんばかりに笑みを浮かべて俺を見ている。

 恐らくは「試してみろ」ということなのだろう。

 なので俺が出すのはセンチュリオン。

 手加減など知ったことかと現在の最大火力をこの防壁にぶち込んでやった。

 結果、アーシダの衣服はぶち抜くことに成功したが、ケイの防御陣地で弾丸は止められた。

 流石は防御型英霊と言ったところか、無口なちびっ子も自慢気にしている。

 しかし……服を一枚ダメにしてしまったが大丈夫だろうか?

 そう思ったので聞いてみると「修復するから問題ない」とのことである。

 今更だが、英霊が着ている服は肉体と同様に構築されているため、霊装でなくとも自動修復がデフォルトで付いているそうだ。

 俺の軍服が勝手に直っているのは霊装だからと思っていたが、どうやら共通のことだったようだ。

 この堅牢な防御陣地に籠って敵を迎撃し続けるのが彼女らの戦術であり、火力不足が大きな問題となっていたと語る。


「まずアタイのリボルバーなんだが……」


 一日に使える弾は240発と決まっており、これは生前の職業に由来するものらしく、一切の対価なしに使えるが故の制約なのだと言う。

 数が多いデペスとの戦いとは非常に相性が悪い。

 それを補っているのが「何でも屋」であるジョニー。


「俺っちが持つデバイスの中には『何でもリサイクル』できるものがある。こいつを使ってレダの弾丸を作成している」


「つーわけで俺っちはレダと組んでるわけ」と自分の役割が攻撃と弾薬補給であると語るジョニー。

 倒したデペスは少し経つと風化して消えるが、それを吸い込みリサイクルして弾を作成しており、近くで倒した敵ならば問題なく回収できてよい弾丸になるそうだ。

 つまり遠くで倒すと弾薬にできない。

 この辺の塩梅が難しいらしく、出せる火力が安定しないのだとレダが肩を落とす。

 ならばとアネストレイヤを見る。


「私、燃費が大変よろしくなくてよ?」


 魔力の回復も早いらしいのだが、安定して火力を出すことはできないと胸を張って言われた。


「私のように小競り合いばかりの場所の英雄では、大規模な戦いに付いていくのは難しいのですわ」


 彼女の言葉にうんうんと頷く女性陣。

「俺っちに至っては何で呼ばれたのかすらわっかんねー」と自分のメインウェポンであるレーザー銃を見せてくれる。

 最大持続時間五秒、フル稼働なら十五分ほどでエネルギー切れを起こす、と腰に付いたエネルギーパックを指で叩くジョニー。

 幾つかのデバイスを持っているジョニーは色々な物を作ってサポートをするのが本来のやり方である、と言うのだが、このチームではできることがほとんどなく、攻撃面ではレダの弾薬係をやるのが一番効率的らしい。


「俺っちの存在意義がわかんねー」


 そうは言っているが「何でもリサイクルできる」というのはエデンとしては得難い能力だと思われる。

 次にレイメルなのだが……防御陣地も無敵ではない。

 なので張り付いた敵を弾き飛ばす、敵の足止めをするといったサポート以外にできることがほぼない。

 一応防御陣地を更新するための時間稼ぎをする手段を持っているので、この中ではちゃんと役割があるそうだ。

 最後にアタッカーとなる三人。

 外科医だろうが攻撃しろ、リアディは息切れが早い上に柱での測定値が280と頼りにならない研究者。

 クールタイム長すぎスナイパーのウィーネリフェルトは測定値こそ1025と高いが、やはり弾を作るのに時間がかかりすぎており、総合的な火力は今一つ。

 燃費悪すぎ範囲攻撃のアネストレイヤ――測定値825と高い火力と広範囲でダメージは稼ぐがすぐガス欠で休憩。

 こんな調子なので現状この中ではレダが最も優れたアタッカーとなっている。

 ちなみに防御役の二人だが、こちらも攻撃は可能である。

 ケイは防御陣地そのものを動かして圧殺する。

 だが、敵に陣地の中に入ってもらう必要があり、彼女を攻撃に回せば戦術そのものが破綻する。

 アーシダは攻撃に回るとパージした衣服が高速回転。

 敵を切り刻むこともできるが、味方の攻撃の邪魔になる。


(何と言うか……こいつらの組み合わせ自体あんまり相性が良くないような?)


 そんな結論を出したところで、それを察したレダが「まあ、寄せ集めだからね」と身も蓋もない言い方をする。

「それを言っちゃあ、おしめぇよ」とジョニーが笑うが……これ、笑い話にできるのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

英霊召喚されたんだけど多分俺はまだ死んでない 橋広功 @hasihirokou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ