2-3
戦闘詳細の報告は問題なく終わった。
理由は幾つかあり、デイデアラが楽しみにしていたクドニクは参加しておらず、その仲間の一人であった騎士が来ただけだったからだ。
それでも絡みに行くデイデアラだったが、騎士との話がどうにも噛み合わない。
他の英霊が続々と到着し、何事かと見守る中でジェスタが登場。
「クドニクのチームが意図的にスコール1に敵を押し付けていた」と主張するデイデアラと「そのような事実はない」とする名前も憶えていない騎士との不毛なやり取り。
これを確認すべく戦闘記録を確認したところ、クドニク率いるチームが周辺からの圧力に耐えきれず、後退していく様が映し出されていた。
これにはデイデアラも首を傾げた。
何せ「まるでそう見えるように調整したかのような動きにしか見えねぇぞ」と逆に感心したほどなのだ。
また、この時の劣勢に関しては目の前の騎士に責任があったらしく、自ら「自分の力不足でこのような失態を演じた」と当時の状況を語ってみせた。
話を要約すると彼がこのチームのタンク役であり、自分が敵の波に耐えきれなかったことで陣形が崩れ、後退せざるを得なくなったということらしい。
なのでこの騎士が「何かしら責を負うのであれば、それは私である」と潔く罰があるなら受けると宣言。
そうなると俺が現地で「何も問題なし」としたので何も言えなくなる。
結果、俺への敵の押し付けがただの事故として処理された。
ここまで狙ってやっていたのであれば完敗である。
クドニクを率いることに特化した英霊と考えるならば、正にその実力を見せつけられた、と言うべきだろう。
戦後処理に関しても経験の差が見事に出た。
なので今回俺が向こうに与えた影響は極僅か。
精々、戦力としての期待が幾分低下した程度だろう。
とは言え、印象と期待は間違いなく俺が上になった。
何かあればエデンは俺を優先するはずである。
そのためにも戦果ポイントを稼がねばならない。
そこで気づいた。
今回稼いだ分は情報料の前借で持っていかれる。
ちょっとこちらの創作物に興味があっただけに残念である。
ちなみに最終功績も教えられたが、順位はほぼ変わらず、今回は中型のタイプEへの対処が非常に大きな割合を占めている計算となっていた。
何せ俺の功績の約三割が中型が立ち上がった時の膝への一撃だったのだ。
あれで時間を稼いだことが評価に繋がっていたそうだ。
「完璧なタイミングの一撃だったからこそ、タイプEは体勢を崩し、時間を稼ぐことができた。もし何もしなければ飛び掛かってでもエルメシアの妨害をしていただろう」
そうなった場合の被害や戦闘時間を鑑みるとこの功績は決して過大評価ではない、とジェスタは言い切った。
廊下を歩くアリスにその話をしたところ、それはそれとして情報料は「出撃二回分」と決めていたため、交渉の余地はないとのことである。
そんな感じに戦闘詳細の報告が終わり、思い通りに面白くならなかったデイデアラは途中退出しており、廊下で待機していたアリスとこうして次の目的地に向かって歩いている。
「確かによく見ると服の色が微妙に違いますね」
今回の戦闘を経て、新たに強化服が更新されたことを話すとアリスは俺の服をまじまじと見ながら頷く。
全盛期にはまだまだ遠いと念を押しておくが、今回の成果よりも期待値が上がるのであれば、交渉の余地はあるかと思ったがやはりダメ。
どうせ使い切れないくらい貯まるのだから、とまで言われたので俺は素直に引き下がった。
(まあ、確かにあの映像を見たらそうなるか)
客観的に見れば人類存亡の危機に瀕しているところに同じくらいか、またはそれ以上にヤバイことになってるところで戦い続けて大戦果を挙げた英雄が来ているのである。
期待するな、という方が無理だろう。
ゲーム内だけでなく「スコール1を演じる厳しさ」を知った気分である。
そんなことを話している内に目的地へと到着。
中に入ると見知った大きな青い柱とリオレスが俺たちを出迎える。
「待たせたか?」
「問題ない」とリオレスは手にしていた剣を鞘に納める。
どうやら向こうも何かしていたらしく、アリスは柱のログでも確認しているのか驚きの表情を見せている。
覗き込んでみるとそこには「1562」の文字があった。
記憶にある数字から随分と上がっている。
つまりリオレスは実力を隠していた、ということか?
その答えを示すようにリオレスは自分の剣を抜いてこちらに見せる。
「見ての通りだ、剣が持たん」
なるほどと頷いてみせるが残念ながら見てもわからない。
アリスが近づいてじっくり見た後、眼鏡の何かを操作して「そういうことですか」と納得した。
適当に頷いたのがバレたかもしれない。
「時間経過で修復はする。だが、これではな」
そう言ってリオレスは剣を鞘に納める。
以前俺の出した刀に反応したのはそれが理由か、と今回の検証に協力的なことにも納得した。
ということで早速Tier4のブレードを取り出す。
まずは俺が青い柱の計測器に対して一太刀。
続いて流れるように一突き入れる。
数値はどちらも攻撃力の十分の一である「480」と表示された。
では、これを別の人が使った場合どうなるか?
技術や他の要因でのプラスはあるのか?
また、それらは俺にも同様に適用されるのか?
一応ゲーム内でも同じ武器を使い続けることで、数値として表示されることはないが熟練度が上昇し、性能が僅かではあるが向上していた。
最大でも5%なので微々たる量ではあるが、それでも理論値を求めたり、確殺ラインを超えるには役には立っていた。
それ以上の恩恵が果たして存在するのか?
これはそれらを知るための検証である。
だが強化服を着ているにもかかわらず、その数値は攻撃力のままであることを示している。
俺は手にしたブレードをリオレスに手渡す。
頷き、それを手に取るリオレス。
しばしその刀身を眺めた後、リオレスはブレードを上段に構え――振り下ろしていた。
思わず声を失った。
振り下ろすその動きが全く見えなかったのだ。
これにはアリスも驚愕を露にしており、青い柱は刃が通ったにも関わらず見た目の変化が何もない。
「振れるな」
全力で振るうことができる、と変化があるのかないのかわからない刀身を確認するリオレス。
そして気になるその数値はと言うと……これまたアリスが驚愕して声も出ないらしく、俺は彼女の肩越しに覗き込む。
「3012か」
俺の呟きにハッと我に返るアリス。
すぐさま何処かに連絡を取り始めると「お願いですからここで待っててくださいね!」と慌てて何処かへ行ってしまった。
確かこれまでの最高記録は2200くらいだった気がするので、この数値は大幅な更新となる。
「状況に応じて貸出も視野に入れるか」
この結果にはこう言わざるを得ない。
俺の呟きに「助かる」とだけ言うリオレス。
近接武器が使えなくなるのは痛いが、基本切羽詰まった状況でもない限り使わないのが近接武器。
何より銃が主体である以上、近づかれる前に倒すのが基本であり、そのような状況に陥ることがそもそも問題である。
それにしても本気で戦えないことに彼はストレスを感じていたのだろうか?
リオレスは再び測定器を見えない速さで切り刻んでいる。
その数値はどれも三千前後を表示しており、やはり技術によるダメージの補正は俺以外には存在しており、俺はゲームの攻撃力に縛られる運命にあるのかもしれない。
(強化服で多少なりとも身体能力は上がっている。しかし数値に変化はなかった)
計測器の問題という可能性もあるが、恐らくはこちら側に原因はあると俺は見ている。
「やはり、この剣ならば存分に振るえるな」
一通り試して満足したのか、リオレスがブレードを返却してくる。
しかしアリスの様子から再び使うことはわかっているので、リオレスにそのまま持っていてもらう。
手にしたブレードの刀身をじっと見つめるリオレスに俺はそいつの説明をする。
と言っても記憶にある説明文に書かれていたものを教えるだけだ。
それを聞いたリオレスは「なるほど」と頷く。
そこに息を切らして入ってきたのは見たことのない眼鏡をかけた初老の男性。
「眼鏡率高いな」と思ったが、思い返せばアリスは眼鏡に触れて何かをしていた。
(ああ、眼鏡はデバイスなのか)
用途は不明だが、納得した俺は小走りで近づく初老の男性を待つ。
肩で息をしているので全力で廊下を走ってきたのだろう。
「はじめ、まして、私が……はあ、研究所の、主任を、務める……」
息も絶え絶えに自己紹介を始めたので、まずは息を整えるように落ち着かせる。
自らを主任と言う男性も「それもそうだ」と二度、三度と深く深呼吸。
「すまない。私が研究所の主任『ローガン・マクレイダ』だ。早速だが、見せてもらいたい」
ローガンの言葉にリオレスがこちらを見る。
なので俺も頷いて返すとリオレスが柱の前に立ち――あの一撃を再現する。
結果は3014と先ほどより少しだけ高い。
その数値を見た主任が喜色の笑みを浮かべた。
「……規定外領域への到達を確認した」
そういうことだったのか、と呟く主任が何やら考え込むような仕草を見せる。
何を考えているのかはわからないが、この攻撃力を戦力に換算できないのはもどかしかろう。
なので先ほど話していた通りに主任へ提案する。
「ブレードの貸出も検討するが?」
「有難いが、良いのか?」
構わないと首肯する俺に「助かる」と主任も礼を言う。
「だが、あまり長くレンタルはさせない。彼の武器は我々が用意する」
「それは」と言いかけたところで主任がその先を手で制する。
「規定外領域とは、デペスの適応範囲外にある逸脱した人の技術を指す。彼は……リオレスの剣はその領域へと到達している」
「ならば、彼が振るう武器を用意するのは我々エデンの役目だ」と胸をドンと叩いてむせ返る。
いい歳なんだから無理しないでください、とアリスは先ほどの全力疾走を含めてローガンを窘めている。
すまないと謝りながら笑うローガンが俺に向き直り頭を下げた。
「感謝するスコール1。君のお陰で、我々はまた一つ新たな希望を見つけることができた」
その言葉に俺は黙って頷くのみ。
早速これからリオレスに相応しい武器を作成したいらしく、協力を彼に要請するローガン。
研究職の人間らしいその熱量。
だが主任の熱狂とは真逆の冷たさがリオレスにはあった。
「『そういうことだったのか』……これはどういう意味だ?」
その言葉にローガンの笑みが消える。
またわからない話が始まる予感に「ポーカーフェイスを崩すんじゃねぇぞ」と俺は自分に言い聞かせた。
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