1-12

 訓練場にて、俺とエリッサは頭を悩ませていた。


「どうしたもんかな、これは……」


 俺がぼやくとエリッサもまた「うーん」と腕組みをして呻っている。

 結論から言うと俺が出したアサルトライフルをエリッサは使用することができた。

 しかし俺が使うために別のものを取り出すとアサルトライフルが消えた。

 ここまでは俺の想定の範囲内だ。

 腰のベルトに付いている弾薬パックからは俺が使用している武器の弾しか出せない。

 これは多分確定。

 だからこれだけでは二人で武器を使用することはできない。

 ならばやることは一つである。


「バイクの武器スロットを使うしかない」


 結果として武器を二つ具現化させることには成功した。

 ここまでは予想通りだ。

 問題は弾である。

 バイクに備え付けられた弾薬パックから取り出すことができるのはやっぱり俺だけであり、リロードという重要な部分が俺任せになるのでは戦力の増加には至らない。

 二人乗りで戦おうにも俺が運転をして攻撃を任せたとしても、戦力向上に繋がるとはとても思えない。

 それ以前に二人乗りの場合、何処に乗るのかという問題もある。

 何せバイクの弾薬パックは座席の後ろにあるのである。

 リロードに問題が出てくるのであれば、バイクを置物として戦う外なく、敵の群れを迎え撃てるだけの火力がない現段階では理論値でも無理がある。


「やはりこっちの武器を借りるのが正解か?」


 諦めつつある俺の呟きにエリッサは「あー、それなんだけど……」と言い難そうにこの案が無理だと教えてくれる。


「エデンの人が言うには『ここの武器は最終手段』なんだって」


 どういうことかと首を傾げる俺にエリッサは説明してくれる。


「デペスってこっちの攻撃を解析して対策を講じてくるんだって。だから通常の兵器はいずれ対策されて全く通じなくなるの。だから対策できない英霊の力がデペスとの戦いには必須なんだって言ってた」


 昔使ってた武器はもう全く通じなくなっており、それ以外の兵器もほとんど効かなくなってしまい、対策されていない最新兵器はエデンにデペスの侵入を許した時の最後の手段という扱いになっているのだと言う。


「デペスと戦い始めたばかりの時は一方的に駆逐できていたらしいんだけど、徐々に倒せなくなって新しい武器を開発して、また倒せるようになってを繰り返していたって言ってたよ。けど新武器の開発が追いつかなくなって、小さな町が飲み込まれた辺りからドンドン劣勢になって大きな町も飲み込まれていったんだって」


 思わず顔を顰めるほどに嫌な情報であるが、この話にはまだ続きがある。


「問題なのは飲み込まれた都市にあったとされる全ての兵器が、実戦で一度も使っていないのに通用しなくなっていたんだって」


「……それでデペスは文明の利器も利用できるとエデンは判断したのか」


 このことから寄生体デペスは「寄生する宿主を都合の良いように作り変える」とエデンは確信し、それに人類の発明が利用されていることも理解したのだろう。


(だから新たにデペスに通用する武器を作っても使えない。当然、英霊にそれらを使わせることもできないわけか)


 しかしそうなると何故英霊の攻撃に対しては対応できないのかが疑問である。

 それに関してもエリッサは聞いていたらしく、俺の疑問に答えてくれる。


「詳しいことはわかんないんだけど『物質ではないからじゃないか』って言ってた」


「物質ではない?」


 俺が聞き返すとエリッサが頷く。


「ほら、魔力とかって触ることができないでしょ? 英雄って呼ばれるくらい強い人って大体魔力を使ってるからそれじゃないかなー」


 本人でもよくわかってないのか自信がなさそうな説明である。

 すると「違いますよ」と俺が首を傾げたところで後ろから声がかけられる。

 反射的に声の主を見ると見知ったエデンの職員であるアリスの姿があった。


「英霊召喚では英霊の魂を呼び出します。そこに仮初の肉体を与えておりますが、これは『精神生命体』と呼ばれる物質であって物質ではない状態となります。わかりやすく言えば、英霊の攻撃は全て精神属性を持つ攻撃となるので、魂のないデペスは対応することも適応することもできない、というわけです」


 属性特攻とはまたわかりやすい例えを出してくれる。

 そういうことかと頷く俺と「ん?」という感じに首を傾げるエリッサ。

 アリスは苦笑すると別の言い方でエリッサを納得させた後、こちらに来た理由を話し始める。


「ここに御二方がいて何かをしている、との報告があったので何をしているのか聞きに来ました……というか、それは何です?」


 アリスが指を差した先にあるのは俺が出したバイク。

 こっちにはバイクがないのか、と思ったら単にデザインがこっちの二輪車とは違いすぎたらしい。


「走行二輪車なんてもうずっと昔に廃れていますし、あっても軍用なので……」


 エデンという封鎖された空間では土地に限りがあり、都市での移動は専ら公共交通機関になっている。

 車用の道路はあるが、メインはバスと運搬用大型車両。

 個人用乗用車なんてものが使えるのは一部の上層部や緊急時の移動だけとのことである。


「都市内での戦闘も考慮に入れての備えでもあるので、研究職と言えど一般人なのでこういう乗り物とは無縁なんですよ」


 知らないことは当然であるかのように語るアリス。


「それと……わかっていないなら無理に話そうとせずに私に聞いてくださいね?」


 先ほどの魔力云々の件に触れ、エリッサに言い聞かせるアリス。

 エリッサは失敗を誤魔化すように「えへへー」と可愛く振る舞う。

 中々可愛い生き物である。


「あなたは見た目通りの英霊なんですね」


 アリスはそうぽつりと呟き、それに怪訝な顔で反応した俺にその意味を説明をしてくれる。


「初日も言いましたが召喚された英霊は『全盛期の体』で構築されます。なので見た目の年齢と実際に生きた年月は一致しないことはよくあることなんです」


「見た目は若いのに老獪な人とかいて、そうとは知らずやり込められることとかあるんですよ」と職員ならではの苦労があることを漏らす。


「まあ、それはそれとして……何をしているんですか?」


 ようやく本題に入れたアリスは俺たちに向かって問いかける。

 なので俺もこれまでの経緯を解放された武器などを含めて話した。

 全てを話し終えた時、全員の手にはレーションと給水機から持って来た水の入ったカップがあった。


「フルーツ味って果物よね? 何の果物?」


「果物かぁ……データベースでしか見たことありませんね」


「何の果物だろうなぁ」


 多分何か色々混ざってるのではないだろうか?

 ちなみにカップは透明なプラスチックのような素材。

 ちゃんと給水機の近くに専用のゴミ箱があるのでそちらに入れてください、とのことである。

 こんなものでも再利用しなければならないんだろうな、とここの生活についてしみじみと考えさせられる。


「というわけで、だ。何か案はあるか?」


 フルーツの話を打ち切って俺の武器を貸し出して戦えるような方法はないか、とアリスに聞いてみる。


「でしたら、そのバイク? に彼女が乗れる場所を作るのはどうでしょうか?」


 アリスの答えに俺は「あっ」と声を漏らす。

 イメージするのはバイクに取り付けるサイドカー。

 小回りは効かなくなるだろうが、これなら弾薬の取り出しに不便はなく、二人乗りでも問題なく戦える可能性がある。

 早速俺はそのことを伝えるとアリスはバイクを手に持った携帯端末でスキャンする。

 これで測定できるのだから近未来というイメージは間違ってないと思う。

 形状など軽くだが俺が知ってることを教えておくが「流用できる物があればそれを使うことになる」とアリスは何処かに連絡を取り出した。

 一方俺たちはというと何とかなりそうな予感に軽く拳を合わせる。


「なら、どの武器を使うのがいいか色々試してみよー」


 ノリノリのエリッサに適当な相槌を打ち、まずはスナイパーライフルを取り出した。

 使い方を教え、的に向けて撃たせてみたのだが……しっかり当たりはするものの、本人は不満気の様子。


「狙いをつけるのに時間がかかりすぎている」


「わかってるよー」


 口を尖らせるエリッサが、弾倉に残った弾がなくなるまで撃ち続けるも、不満気な顔は変わらず「次いってみよう」と俺にスナイパーライフルを返却する。

 しかしそうなるともう候補が一つしかない。

 初期装備は弱すぎる。

 それと変わらない貧弱ライフルも同様にダメ。


(となるともうこれしかない)


 俺がメインかサブにしようと思っていた武器であるロケットランチャーを取り出す。


「おっきいのきたー」


 どういう武器かを簡単に説明した後、使い方を教えてからロケットランチャーを手渡す。

 無邪気に笑うエリッサがロケランを受け取り、構え方を指導するが小さな体では少々不安定感が拭えない。


「これでいいのー?」


 少し離れた俺に発射準備を整えたエリッサが聞いてくる。

 思わずOKを出そうとしたところで、俺はあることを思い出した。


「あ、そう言えば……」


 俺が言いかけたところでエリッサがロケランを的に向けてぶっ放した。

 起こる爆発に響く轟音。

 注意事項の前にまず止めるべきだった。

 やっちまった、と顔を伏せる俺と楽しそうにロケランを抱えてぴょんぴょん跳ねるエリッサ。

 彼女が爆発に耐えた的を指差しはしゃいでいるところに駆けつけるエデンの職員。


「……またですか?」


「いや、止めるのが遅かった」


「ほんとすまん」と俺は頭を下げて謝罪する。

 派手に音を立てるような攻撃を行う時には事前に申請しておく必要があることをエリッサに教えるが「それ僕悪くないよね?」とこっちに責任を押し付けてきた。

 発射許可を出してないのに撃ったから同罪であることを告げ、俺はエリッサの頭を掴んで謝罪を強要。

 割と本気で抵抗するエリッサだが「誰の武器を借りることになると思っているのか」と脅したらあっさりと屈した。 


(上手くいったと思ったのに締まらんなぁ)


 申請自体は既にしていたので職員の案内で専用の訓練場に移動する。

 ロケットランチャーをお気に召したエリッサの機嫌はすぐに良くなり、リロードの仕方もすぐに覚えてくれた。

 これなら任せてもいいかもしれない、と思ったが、そうなると俺はどうやって戦うべきか?

 バイクを運転しながら二人分の弾薬を出して銃を撃つ。


(流石に厳しいか?)


 いっそ運転を任せることも考えたが、必要な手足の長さに到達しているかどうかも不明の無免許に運転させるのは流石に怖い。

 頭を悩ませる俺に「次の弾を出せ」と服を引っ張るエリッサ。

 次の戦闘でアンロックされる武器に委ねるか、と俺は諦めた顔で溜息を吐いた。

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