二、ひよこはかわいいだけじゃない
どうやら、俺に用意された料理のうちの一皿に毒(?)のようななものが入れられていたらしい。
その皿を
毒見もしてないのに毒の混入がわかるなんてすごいなーと遠い目をしたくなった。
ところで毒見役は何をしてたのかって?
普通第十皇子の食事になんか毒見役は付かないんだよ。うちの母親は身分が高い家柄出身でもないし、皇帝の寵を他の側室たちと争ったりもしていない。俺に皇位継承権が与えられるなんて誰も考えてなかったから、今まで毒見役なんて必要なかったのだ。
一応皇位継承権が与えられることになったから今日の昼には毒見役が手配されることになっていたらしいけど、その前にさっそく料理に毒を盛られたってワケ。
厨師長(料理長)以下厨房に勤める者、そしてうちの女官、侍従、侍女が集められて、現在武官と衛士たちによる聞き取り調査が行われている。
……腹減ったなぁ。
「なぁ、小白。腹減ってない?」
俺の手のひらに乗っている小白に声をかけると、ピイピイと鳴いた。
少なくとも水はあげた方がいいだろう。
「あのー……小白に水だけでもほしいのだが」
そう声をかけると、武官や衛士たちが困ったような顔をした。
「お持ちします」
俺に一番長く仕えている侍従の
「おい、まだ犯人は判明していないのだぞ!」
衛士が叫ぶように言った。俺は衛士をキッと睨みつける。
「誰の目の前で口を聞いている? 貴様お酉さまをないがしろにする気か!?」
「い、いえ……そ、そのようなことは……」
俺は十番目とはいえ皇帝の息子だし、それを加護すると言われているひよこの為に侍従が動くのは当前だろう。さすがに衛士は狼狽えた。
「殿下、ありがとうございます。少々お待ちください」
呂偉はそう言うと、失礼ではない程度に急いで食堂を出て行った。俺は気持ちを鎮める為に小白を撫でた。実のところ、心臓がバクバクいっている。なんかの儀式の際ぐらいしか皇帝である父親に会う機会もないから、今までは自分が皇帝の息子という自覚もあまりなかった。
ピイピイと小白が鳴く。呂偉が水を入れた器を持ってくると、小白はそこになんの躊躇もなく頭を突っ込んだ。
みな固唾を飲んで小白を見つめているのがわかった。
小白は満足するまで水を飲んだのか、頭を上げてピイ! と鳴いた。
「喉が渇いてたのかな。ごめんな」
呂偉が出した布で小白を拭く。しかしこのままではいつまで経っても朝食にありつけそうもない。
「なぁ、小白。毒が入っていたことがわかったのなら、その毒を盛った者がこの中にいるかどうかわかったりしないかな?」
小声で小白に話しかけると、小白は俺の手の中からぴょん、と跳び下りた。
「小白?」
そして平伏している人の間を縫うようにぽてぽてと歩き、一番後ろで震えている侍女の前で止まった。
そこで俺に振り向いてピイ! と鳴く。
「お、お酉さま……?」
後ろの方にいた侍女たちが戸惑ったような声を発した。
「そうか」
普通なら、ひよこに犯人を当てさせるなんてありえないと思うだろう。だが小白が何を言っているのかはわからないものの、俺と小白の間になんらかの繋がりがあることはわかった。小白は間違いなく俺の言葉を理解している。
小白は俺に、毒を盛った犯人はその娘だと教えてくれたのだ。
「小白、戻ってこい」
小白がこちらに戻ってこようとした途端、平伏して震えていた侍女がバッと立ち上がり小白に手を伸ばした。みなハッとした顔をし、衛士たちが動く。小白は侍女に背を向けていたが、侍女の手を避けてぴょんっと飛び上がり、着地するとまたぽてぽてぽてーっと俺のところへ駆けて戻ってきた。その動きは決して速いものではなかったが、侍女の手から逃げるには十分だったらしい。
思わずしゃがんで小白を迎えた時には、その侍女は衛士たちに取り押さえられていた。
「その女が毒を盛ったようだ。背後関係も含めて吐かせろ!」
「
武官と衛士たちは俺の言葉に返事をすると、その侍女を引っ立てていった。侍女は頭を垂れ、こちらを見ることはなかった。
どんな理由があろうと、皇族を殺そうとしたなんて極刑間違いなしである。一気に物騒になったものだ。
「ふぅ……」
思わずため息が漏れた。
なんなんだよ。皇子とは言っても俺はまだ十歳なんだぞ?
掬い上げた小白をなでなでする。小白は嬉しそうにピイピイと鳴いた。尾羽じゃなくて尾がある不思議なひよこだけどとても癒されるなぁ……。
そう思った時、ほっとしたせいか俺の腹がぐううう~~……と催促するように鳴った。
ぼんっと顔が一気に熱くなる。さすがに恥ずかしくなった。
「冷めた物を片付けてすぐに朝食を用意せよ!」
呂偉が言えば、女官、侍従、侍女たちが慌てて動き出し、俺と小白はやっと朝食にありつくことができた。もちろん最初は小白に毒とか有害なものが入っていないかどうか確認してもらった。
小白は卓に並べられた料理の皿の間をぽてぽてと歩き、普通に戻ってきて生の青菜に齧りついた。どの皿にも毒は盛られていなかったらしい。俺だけでなく仕えている者たちもあからさまにほっとした顔を見せた。
しっかし、ひよこに頼らなきゃいけないなんてこれからたいへんだなぁと思ったのだった。
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