第二章 双子の掟
天明二年(1782)から八年にわたる飢饉。
東北から関東へ、餓鬼の列が這った。死者数十万。
村は無傷だった。
天保四年(1833)から十年。
再び米は尽き、道ばたに屍が転がった。
村は、再び無傷だった。
生き残りの血は、享保の誓いを忘れなかった。
飢えが来るたび、村は同じ儀式を繰り返した。
双子が生まれたら、遅く出た子を食う。
産声の順序を、村の長老が記録する。
先に這い出た子は跡取り。
後に這い出た子は、二十年後の供物。
二十歳の誕生日、夜明け前。
供物は湯殿で湯を浴びせられ、漆の椀で酒を呑まされる。
声帯が焼け、言葉を失う。
その後、集会所へ運ばれ、刃が振るわれる。
肉は均等に分けられ、骨は土に埋められる。
血は井戸に流され、翌年の水を肥やす。
日々それを当たり前にすることで、有事でも刃は迷わない。
村に二十歳を超えた双子は、一組も存在しない。
戦火が村を焼いた昭和二十年。
食糧は底をつき、闇市に人の影が消えた。
それでも村は、掟を守った。
最後の供物が鍋に沈んだのは、終戦の年だった。
それ以降、双子は生まれるたび、遅く出た子は自然に死んだ。
漆の味を知らぬまま、喉を腫らして。
掟は、戦後の混迷期まで続いた。
そして、静かに途絶えた。
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