俺の応援(バフ)、どうやら「監督(の視点)」らしい ~エラーだらけの俺、異世界で美少女球団(パーティ)を率いて逆転勝利(ゲームセット)~
第21話:『格上(Aランク)』の洗礼と『分析(アナライズ)』
第21話:『格上(Aランク)』の洗礼と『分析(アナライズ)』
Aランクダンジョン『巨人の寝床』。
その内部は、俺たちが知るコボルドの森とは比較にならないほど、空気が重く、冷たかった。
「(ひっ……)」
リゼッタの呼吸が浅くなっている。俺の『視点(アイ)』に映る彼女の『エラー率(不安)』の数値は、ギルドを出発してから上昇し続けていた。
(無理もない。あの新聞(ヤジ)で煽(あお)られ、バルガスが負けた相手に挑むんだ……)
「……チッ。『精密攻撃(ミート戦法)』ねえ。あんなデカブツに、チマチマ当てて通用するのかよ」
ガルムが、パティに命名された『戦法』をぼやきながら、巨大な斧(アックス)を握り直す。その声にも、いつもの自信はなかった。
「(わたしの『緩急』が……Aランクの相手に……)」
ルナリアも、自分の魔力(リソース)がどこまで通用するのか、不安を隠せないでいる。
「……空気が重いな。完全に『ビジター』の洗礼や」
ミーナが、周囲の魔力の淀(よど)みを警戒して呟(つぶや)いた。
俺は、昨夜の作戦室(ミーティングルーム)での光景を思い出していた。
エルミナから受け取った『データ(スコアブック)』――そこには、『アイアン・ブルズ』の戦闘記録(ログ)が克明(こくめい)に記されていた。
(回想)
「これが、バルガスたちの『失敗(エラー)』の記録……」
ログには、バルガスが自慢の『パワー(大振り)』で巨人に挑みかかり、巨人の『二つの頭』による完璧な『連携(ツープラトン)』に阻まれる様子が記されていた。
『右の頭』がバルガスの攻撃(パワー)を分厚い腕で『防御(ブロック)』し、同時に『左の頭』ががら空きになった胴体(ボディ)に『攻撃(カウンター)』を叩き込む。
巨人の攻撃は、『重く(剛速球)』、『速い(変化球)』の二種類。
バルガスのチーム(アイアン・ブルズ)は、その二つの『攻撃パターン(球種)』に対応できず、『エラー(被弾)』を連発し、負傷者を抱えて撤退(リタイア)を余儀なくされていた。
「(バルガスの『パワー』だけでは押し切れない。あの巨人は『二つの頭』で、一つの完成された『バッテリー』を組んでいる……!)」
「(Aランクは伊達やないな)」
ミーナが、俺の横からデータを覗き込む。
「(こっちの『連携(スモールベースボール)』が完成する前に、あっちの『連携(バッテリー)』に潰されるで)」
「……来たぞ」
俺の声に、全員が武器を構える。
ダンジョンの最奥部。ドーム状の巨大な広場に、ソレはいた。
「「…………」」
『双頭の巨人(ダブルヘッダー)サイクロプス』。
その威圧感(オーラ)は、コボルドリーダーの比ではない。昨夜『データ(ログ)』で見ただけの数値が、現実の『絶望』となって目の前に聳(そび)え立っていた。
「(ひっ……!)」
リゼッタが小さく悲鳴を上げ、腰を抜かしそうになる。
「(……デケェ。デカすぎるだろ……)」
ガルムですら、その巨体(パワー)を前に息を呑んでいた。
ゴ……ゴ……
巨人が俺たち(ピジョンズ)に気づいた。
二つの巨大な単眼が、ギョロリとこちらを同時に捉える。
「(まずは『データ』通りか確認する!)」
俺は、恐怖で固まるメンバーたちに叫んだ。
「リゼッタ、かく乱! ルナリア、牽制!」
「は、はいっ!」
リゼッタが、震える足で『足(スピード)』を活かし、巨人の側面(サイド)を取ろうと駆け出す。
その瞬間、巨人の『右の頭』がリゼッタを『視認(マーク)』した。
同時に、『左の頭』が、リゼッタの移動先を完璧に予測し、巨大な棍棒(こんぼう)を大地に叩きつけた。
ズドオオオオオン!!
「(速い!?)」
リゼッタは、俺のバフ(スピード強化)もあって、直撃こそギリギリで回避した。だが、凄まじい衝撃波(アフター)に巻き込まれ、無様に吹き飛ばされる。
「きゃあっ!」
受け身も取れず、『エラー(転倒)』した。
「(しまった!)」
すかさず、巨人の『右の頭』が、体勢を崩したリゼッタに狙いを定め、追撃の腕を振りかぶる。完璧な『連携(バッテリー)』だ。
「ルナリア、『5割(速い球)』! ガルム、カバー(カット)!」
ルナリアが即座に魔力弾を放つが、巨人は『左の頭』の腕で、まるで邪魔な虫を払うかのように簡単に弾き飛ばした。
(『パワー』が違いすぎる……!)
「グ、オオオオッ……!!」
巨人の追撃がリゼッタに迫る。ガルムがリゼッタを庇(かば)うように割り込み、その一撃を斧(アックス)で受け止めた。
ゴッッ!!
「(ぐっ……!)」
ガルムは『精密攻撃(ミート)』の型で衝撃を受け流そうとする。
だが、バルガスすら押し負けた純粋な『パワー(重量)』は、ガルムの技術(テクニック)ごと彼を数メートル吹き飛ばした。
「ガハッ……!」
「ガルムさん!」
リゼッタは転倒(エラー)、ガルムは強打(デッドボール)を受け、戦闘不能(ダウン)寸前。ルナリアの攻撃は通用しない(打たせて取る)。
戦闘開始、わずか数分。
俺たちのパーティは、半壊状態に陥っていた。
「(クソ……! データ(ログ)通り、いや、それ以上だ!)」
巨人が、勝利を確信したように、二つの頭で不気味に笑いながら、とどめの一撃を振りかぶる。
絶望的な状況だった。
だが、俺は『監督(の視点)』で、その巨人の動きを『分析(アナライズ)』し続けていた。
(待て……?)
巨人がとどめを刺そうと棍棒を振りかぶる。
その一瞬。
巨人の『右の頭』の目が、一瞬だけ『左の頭』の目を見た。
まるで『サイン』を送るように。
そして、『左の頭』が、その『サイン』を受けて棍棒を振り下ろす。
(……『右の頭』が『指示(サイン)』を出し、『左の頭』が『実行(ピッチング)』している……?)
俺は、巨人の二つの頭の連携(バッテリー)に、ごくわずかな『癖(モーション)』があることを見抜いた。
(……『データ(スコアブック)』には無かった『穴(ウィークポイント)』だ……!)
絶体絶命のピンチの中、俺は逆転への糸口(サイン)を、確かに掴(つか)んだ。
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