中年エスパー唯野イチロー
唯野イチローは、不細工な中年。
髪の毛の中心は禿げていて河童のよう。
おなかはでっぷりとお相撲さん並み。
しかし、イチローはエスパーなのだ。
テレパシー、透視、テレキネシスなど
予知能力とタイムトラベル以外は
たいがいの超能力はできる。
特に瞬間移動は得意技。
しかも、時間を止めることも
できるので早業が可能だ。
そんな凄い能力を持っているので
彼のもとにはいろいろな相談が舞い込む。
そして困りはてた人が
口コミで次々にやって来ては
大金を落としていくのだ。
だから経済的には豊かなのだが
残念なことに彼は無趣味だった。
十二月二十三日、クリスマスのイブイブは休診日。
暇を持てあましていたので、
竹下通りの或るお洒落なお店の前を
何となく透視していたら
女子高生四人がキャアキャア騒ぎながら
スマホで写真を撮り合っている。
女子高生に人気のスポットなのだろう。
イチローはいたずら心を起こした。
アンパンマンそっくりの中年男に変身し
タイミングを待った。
「いーい? じゃあ、撮るよ」
パシャ。
「ねえねえ、うまく撮れた?」
撮ってもらった三人が
スマホの子に駆け寄ってきた。
四人で、撮ったばかりの写真を覗き込むと
後ろでアンパンマンそっくりの中年オヤジが
ニコニコしている。
「このおっさん、誰?」
「キモ~イ」
四人はあたりを見回したが
そんな男はいなかった。
「ひょっとして、これって心霊写真かも」
「この辺の地縛霊かなあ」
「いや~ん」
「やだぁ~。早く他のところに行こう」
四人は慌ててそこを駆けだした。
イチローは大笑いして
その一部始終を透視していた。
こりゃ暇つぶしに最適とばかりに
その付近を見ていると
また女子高生三人が写真を撮っている。
スマホのシャッターを押す瞬間
イチローは女の子の後ろに瞬間移動して
にっこりとⅤサイン。
シャッターを切る瞬間に
二十分の一秒だけの瞬間移動なので
周りの人は誰も気がつかない。
三人は撮ったばかりの写真を見て
またギャアギャアと騒ぎ出した。
「だれ? このキモイおじさん」
あたりを見回すがそんな中年男などいない。
そしてあらためてギャアギャア騒ぎ始めた。
「心霊写真だよ」
「ここの地縛霊だよ、きっと」
「やだあ」
「気持ち悪いから早く別の所に行こうよ」
イチローは女の子たちの反応に
腹を抱えて笑った。
このあたりは若い女の子
特に女子高生の人気スポットらしく
次々に女の子たちのグループが来て
お洒落なお店の前で記念写真を撮っていく。
イチローはさらにイタズラ心を起こした。
女子高生がどんなぬいぐるみを好んでいるか
は、時間を止めて彼女たちの心を読めば
よく分かる。
さっそくぬいぐるみ専門店に瞬間移動して
いろいろなタイプのぬいぐるみを
買い集めた。
女の子達が逃げて行く時に
楽しませてくれたお礼にと
それぞれの子の好み通りのものを選んで
女の子達の前にポンと落としたのだ。
「きゃあ~、可愛い」
「いや~ん! か~わいい」
などと、女の子達はまたまたキャアキャアと
騒ぎ出す。
イチローは女の子達の反応に
さらにハマってしまった。
十組ほどしただろうか。
疲れてきたので
その日は止めることにした。
心霊写真だけではなく
好みのぬいぐるみが落ちてくることは
その日のうちにSNSを駆け巡った。
次の日から、
その界隈は女子高生で溢れかえった。
次々にグループ写真を撮っていく。
それを見たイチローは
あまりの多さに腰が引けた。
で、暫く間をあけることにした。
「あれえ、おじさん写ってないよ」
「がっかりだねえ。
せっかく前橋から来たのにね」
女子高生たちはがっかりして帰って行った。
イチローはお人好しだったので
それを見て可哀想になり
特定の日に実行しようと思った。
次は?
とイチローは考えた。
元日のイブイブ、
つまり十二月三十日にしようと決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます