第9話 雨か?涙か?
「私、泣いてないよね?」
「これは、これは私の涙じゃないよね?」
「雨かな?」
「ふふ。」依玲は自嘲するように笑った。
依玲は夕暮れの校庭に立っていた。どうして自分が校舎の反対側、こんなにも人里離れた場所にまで来たのか忘れていた。たぶん、誰にも見られたくなかったからだろう。
授業のチャイムが鳴り終わったばかりだった。依玲は慌ててトイレに向かった。さっきもらった飲み物、彼女のお気に入りの抹茶ラテのせいで、半授業中ずっと我慢していたが、やっとチャイムが鳴り、解放されたのだ。
「まだ聞いてる?」依玲は尋ねた。
「うん」電話の向こうのマンマンは短く答えた。壁の時計は午前2時50分0秒を示していた。
「あの日、私、トイレを出た瞬間、あの角で、陳くんが呆然と立ってたの。彼、多分、私を見た。私を一瞥したの。その目つきは、剣道の時とは違ってた」依玲は静かに言った。
「彼は何も言わなかった。もう一度私を見ることもなかった」
「まるで、そこに空気を見たかのように」
「私を空気のように、存在しないものとして扱ったの」
――
『愛』の反対は『憎み』ではない、『無視』であること。
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