第25話 これとか、どう思う?
中はほんのり暖かい。あと、思いの他匂いが甘い。店頭のアロマ? 香水っぽい甘さが混ざってる。
「は〜生き返る……」
「外死んでたの?」
「瀕死」
「よかった蘇生できて」
「ありがと。きいちゃんのおかげです」
「なんで私の手柄になってるの」
「寒いと死ぬから、きいちゃんは私をあっためる義務がある」
「義務? なんで?」
口ではそう言いながら、でも私は、当然みたいに言ってくるのが嫌じゃない。むしろ、ちょっと気持ちいい。なんだそれ。
店内は狭いけど、クリスマス棚みたいなのが一応ある。赤と白と金に寄せたラッピング袋とか、安いピアスとか、ヘアゴムとか、マグカップとか。可愛いけど、別にブランドでもなんでもないっていうラインナップ。
それを前にした瞬間、私の頭の中で警報が鳴った。
あ、これプレゼントゾーンじゃん。
きいちゃんの日は24日。24日に一緒にいる。それはもう決まってる。
じゃあその日、なんか渡すべき? 渡すべき……だよね? これはそういうイベントだよね? 少なくとも漫画だとそうだよね?
私の胃のあたりから、ふわっと妙な熱が上がってきた。
やだ、これ、緊張? 私、プレゼント買うのに緊張してる?
おかしくない? いや、おかしくない。おかしくないわ。落ち着け。
さっちょんは、商品棚に顔を近づけて、きらきらしたヘアピンを指でつまんだ。
「これかわいくない?」
「それ、似合いそう」
「まじ?」
大マジだよ。それ付けたらもっと可愛いって言いそうになるくらい。
「さっちょん、ちょっと髪とめるだけで雰囲気変わるから、そういう細かいの強いよね」
「褒められた。やった」
「別に褒めてないんだけど?」
「褒めたでしょ。自覚して」
「自覚の押し売りやめて」
「これ買ってこっと」
さっちょんはあっさりそう言って、そのヘアピンを手に下げたカゴに入れた。
キラキラの、薄いシルバーのやつ。安めのプラにラメが埋めこまれてる、冬っぽい光。
似合いそうって思う。思うんだけど、同時にじゃあ私、なに渡せばいいの? って急に焦りになる。
あっ、これかわいいと、さっちょんが別の棚に移動して、ふわふわした小さい手袋をさわる。
「指先開いてるやつ。ネイル見えるやつ」
「それ手袋の効果ある?」
「分かんないけど、可愛いからいい」
「実用性ゼロ?」
「かわいいは正義でしょ」
そう笑って、手袋を顔の前でちらつかせる。
「きいちゃんこっち来て」
「なに」
「こっち」
刹那、グイっと手首を引っぱられる。
さっちょんは、店の奥の方にある小さめのアクセ棚の前で立ち止まって、そこに並んでるチープなペアストラップとか、ハート型のストラップとか、そういうクリスマス彼氏彼女セット感のあるコーナーを指さした。
「これとかどう思う?」
「……」
喉が一瞬で乾いた。
それは、もう完全に恋人が買うゾーンのやつらだった。
並んでるのは、半分ハートで、ふたつ合わせるとハートが完成するやつとか、LOVEとかローマ字が入ってるやつとか、色違いのキーホルダーとか、そういうの。
その前に、私とさっちょんが二人で立ってる。
なんだこれ。なんだこれ。今これってどういう状況?
かわいくない? ってさっちょんはマジのトーンで言う。
「こういうの、貰っても困るかな」
「困るとか以前に」
「うん」
「これ完全に彼氏彼女コーナーでは?」
「だよね〜」
あっさり認めた。
あっさり認めて、ひょいって笑った。
軽い。軽いのに、爆弾投げたみたいなことしてくる。
「え、じゃあなんでここ連れてきたの?」
「きいちゃんがどんな顔するかなって」
「観察やめろって前も言ったよね?」
「え〜〜かわいかったからまたやる〜〜」
「またやらないで? 心臓の持ちが悪いから!」
「心臓って意外と交換効くんじゃないの?」
「私の心臓はバッテリーじゃないから!」
「そっかぁ」
悪びれゼロで首をかしげる。
いやほんと、この子は危ない。
分かっててやってるタイプの天使がいちばんタチ悪い。
棚の半ハートのペアキーホルダーのとこに、さっちょんが指先を触れる。
ほんとに触れるだけ。買うわけじゃない。
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