なんでもない日常

まだ残る眠気に目をこすりながら、教室の扉を開ける。

自分の机にカバンをおろせば、すぐに声が聞こえる。


「ねぇ!昨日のドラマ見た!?」


興奮したような友達の声。


「見たよ!すっごくドキドキした〜」


わたしも合わせて元気な声。


いつも通りの雑談。

今日の話題は昨日最終回を迎えた恋愛ドラマ。

内容は終始ベタだけど、主役の演技がとーっても上手。

甘いセリフにたくさんの高校生が黄色い声を上げた……らしい。


友達との関係にヒビを入れたくないから言わないけど、

わたしとしては内容がちょっとばかり気に食わない。

特に、付き合ってハッピーエンドなとことかが。


「うんうん、だよねぇ。あんな恋愛してみたい!

水葉もそう思うよね!!」

「えー、わたしはもうちょっと普通の恋愛がいいかな」

「そんなバカな!」


おおげさなリアクションの友達に笑いがこぼれる。

やっぱり友達との話すのは楽しいな。


そんな私の視界の端で、ガラガラと教室のドアが開く。


あっ……


一瞬揺れちゃった目線を友達に戻す。

もう一週間たったのに、まだ諦めきれていない。

未練がましい自分にため息が出そうだ。


風美ちゃん。

私の大好きな……クラスメイト。



───こちらを向いた目線が逸れたような気がする。

いや、もしかしたら願望かもしれない。

水葉も同じ気持ちだったらいいなっていう、願望。


我ながら諦めが悪いと思う。

自分から振っておいて、まだ水葉が好きでたまらないのだから。


でも、お互いのためには仕方なかった。と思いたい。

少なくともあのまま付き合っていても辛いだけ。

私達は致命的にズレていた。高校生同士の恋愛が終わるなんて当たり前のことだ。


視界の端に意識を取られながら席に座る。


水葉の席はわたしの席からよく見える。

いつも通りにスマホを弄っても、

大好きな人の声が、仕草が、

私の心に響いてしまう。


イヤホンをつけて画面に逃げ込む。


未練は早めに断ち切ろう。

終わった恋を引きずっても辛いだけなんだし。


明るい電子音に思考を浸す。

明日はもうちょっとギリギリに来ようと、そう思った。

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