第一部一章序章後編-ブサ剣士と無能術者-
◇◇◇◇◇
魔ネズミとの過酷な(?)戦闘から
撤退した冒険者ニ人は、
まさに満身創痍といった様子で
馴染みの町へ帰り着いた。
そんな彼らを見かけた
町の人々はさぞ、
強い魔物との死闘を繰り広げたのだろう…と、
「お疲れ様」や、「ゆっくり町で休んでください」
など、温かな声でニ人の冒険者を迎えていた。
…逃亡の際に何度か躓いて
転んだだけ、
だったのが事実であったのだが。
町人とぶつからないよう、
注意しながら大通りを歩く。
この町は決して大きくはない。
しかし通りは人が賑わい、
商店街も活気で溢れていた。
町を行き交う人々の特色として目を引くのは、平民や商人よりも軽鎧に身を包んだ武装車…
所謂、冒険者が多いという点だ。
この町 -深い谷の町- には、
ギルドの支所があり、
町の繁栄に一役買っている。
ただ、通常このような小さな規模の町に、
ギルドが必ずしもある訳ではない。
ギルド支所ができた背景には、
この町からごく近い、
山脈の谷間に
世界的有名なダンジョンがある…
それが最大の理由だった。
"ブレイブダンジョン"
発見されてから約八百年ほどらしいが
未だ踏破されてない、
世界有数の
未踏破ダンジョンの中の一つだ。
冒険者は皆、
このダンジョンの踏破を夢に見て来訪する。
ダンジョンは、
全十層から成っているというが、
その最奥には
御伽噺の魔王に匹敵するほどの
超超強大なラスボスが存在する…
という伝説がある。
八百年ほど昔…魔王を倒したという、
英雄勇者の一人、
光の剣士がその魔物を封じた…
と、民間では語り継がれている。
しかし、所詮、夢は夢…
御伽噺は御伽噺…。
並の実力の冒険者では、
精々ニ〜三層へ踏み込むだけで
精一杯だろう。
…それでも…
己の実力を試す為、
伝説の勇者ですら、
倒せなかった魔物を倒す為…
幾度も幾度も、挑むのだ。
それが冒険者だ!
そして…
勿論。
先程の、
ちょっとズレてる
ポンコツニ人組の冒険者らも
恐らく類に違わずだろう。
町で一番賑わっているギルド支所へ
足を進めていた。
魔ネズミ退治の依頼結果を報告に行く為だ。
「依頼…失敗…ですか」
ギルド支所の待合室は
大層賑わっていた筈だが、
この、依頼受付職員の
盛大なため息は、
室内に響き渡るようだった。
「ええと…
冒険者レベル1…
ブロンズ位の剣士、イルさん。
討伐内容は
魔ネズミ一匹の駆除…ですよね?」
「ふぁい…
魔ネズミがぁぁ、
めちゃ強かったのでふよぅ〜!
あと、あと…剣が地面に刺さっちゃってぇぇ」
鎮痛な表情で頭を抱えるギルド職員と同じく、鎮痛な表情でポンコツ剣士イルは訴える。
「いえ…ですが、
魔ネズミは強さレベル1の最弱ランクですよ?
初心者冒険者でも倒せるレベルで…」
「此奴…イルの剣を
引き抜くのを手伝っている間に隙を突かれ、
ネズミの一撃を喰らってしまったのだ」
横合いから口を挟んだのは、
仰々しい口調の女術者だ。
見た目、十代半ばの幼さの残る少女…
にも関わらず、威厳のある語り口調に
何だか神々しいオーラを
纏っているような気がする。
ギルド職員はそんな少女を見て、
恐らくどこかの貴族の…
やん事無い道楽娘なんだろうと、察する。
「ええと、
相棒の貴女は…
術者のリーンさん、ね?
冒険者レベル……999…⁈⁈」
手元の冒険者情報を三度見する職員。
(いや、いや、いや⁈そんな筈は)
職員の動揺は無理もない。
実力によって昇格していく
冒険者レベルも、
さすがにレベルがこの桁になる事は絶対無い。
現在、世界中のギルドで確認されている
冒険者レベルの最上位が
せいぜい、レベル120…といったところだ。
いくら何でも書き間違えだろう。
全く、人騒がせな…
ギルド職員は、
一旦深呼吸をして居住いを正す。
そして改めて、
少女の首に掛かっている
ギルドタグ(冒険者ランクを表す証)を見る。
この、タグの素材もランクによって
違ってくるのだ。
だが…彼女のタグは
見たこともない色をしていた。
(そういえば…所長が以前言ってたな…
高貴な階級の貴人には、
特別なタグが存在するって、
貴人だから実力不問で特別扱い…か?)
「ああ、やっぱり、そういう事か…」
「?」
口元でぶつぶつ呟く職員を見て、
剣士イルと、術者リーンは首を傾げる。
「いえ、失礼、何でもありません。
で?術者リーンさん…
少しは魔術の心得はあるのでしょう?
なぜ、初心者の剣士イルさんに加勢しなかったのです?」
「うむ。
我は術者だが、魔術は一切使えぬからな」
「は?」
「うむ。
術の類いは何も使えぬのだ」
術者リーンは、
なんだったら胸を張って堂々と言い放つ。
数秒の沈黙…
ギルド職員、
この少女の言ってる意味が分からなかった。
いや、分かりたく無かった。
術者を名乗りながら、
術を使えない術者…
え?
それもう、術者では無いのでは⁈
ギルド職員は、いよいよ机に突っ伏す。
…超ポンコツ初心者デブ剣士に、
情報詐欺姫の自称術者…
めちゃくちゃ面倒な奴らが、
この町へやって来たものだ。
夢を見て、
この町へやってきた冒険者は沢山いる。
残念ながら、実力が及ばない者も
散々見て来た。
しかし、
これ程(魔ネズミ一匹倒せない)弱く、
めちゃくちゃな冒険者は初めてだった。
清々しいほど、開き直ってる
ニ人の冒険者とは対照的に、
今後…
このニ人と関わっていく事に
鬱々とするギルド職員だった。
◇◇◇◇◇
(第一話へ続く)
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