異世界温泉無双!〜崖っぷち悪役貴族だったけど、秘湯を掘り当てて人生逆転しました泣〜
コータ
第1話 秘湯が眠る場所へ
俺はたった一人で雪道を歩いていた。
この先に目指しているものがきっとある。全てを捨てても見つけ出すべき秘湯が。
そう信じてひたすら進んでいる。家を出てから、何日経ったかも定かではなくなっていた。
雪道はかなり険しい。荷物を沢山背負ってるからしんどくて堪らないが、目的地は後少しの筈だった。
ここにはグランツと呼ばれる巨大な山があり、そこを超えた川が眺める場所に向かっている。
地図を見ながら、慎重に歩き続けていた。
道すがら、ふとこれまでの人生を思い出している。
マジでしんどいこの挑戦をするに至ったきっかけは、とても些細なものだった。
まずは、軽く俺のことについて話そう。名はレオン・フォン・スフィーダという。
スフィーダ伯爵家の当主であり、かつては広大な土地を持つ名領主などと呼ばれていた。
だけど、俺自身は大したことはしていない。ほとんど親父が手に入れたものを運用しているに過ぎなかった。
もっと言えば俺には前世の記憶があり、この世界で起きることは大抵分かっていた。だからある程度は上手くいっていたんだ。
でも、運命っていうやつは簡単な相手じゃない。全てが順風満帆なら、雪道をヒーヒー言いながら歩いてないわけで。
ちなみに、なぜ俺がこの世界で起きることを大抵は知っていたのか。別に予知能力があるわけじゃないんだ。
実は前世でちょっとしたテレビゲームにハマっていたんだが、そのゲームとこの世界は全く瓜二つだったことに気づいたことが理由だった。
そして、レオンは悪役であり作中の主人公……つまり勇者に成敗されて死んでしまう役柄である。
転生して以来、この事実を知っていた俺は、ありとあらゆる手を考えて運命を変えようとしたものだ。
ところが二十四歳になってみて、運命はまったく変わっていないことに気づいた。
それどころか、勇者達と一度は争うことになってしまい、そのあまりにもな強さに尻尾を巻いて逃げ出してしまう。
この軟弱者め、となじる方もいることだろう。だがちょっと待ってほしい。
俺の魂は前世では、日本という平和な国で穏やかに過ごしていたんだ。
一般的なサラリーマンであり、戦いなんてしたことがない。喧嘩だって一度もしたことがない。
それが急にゴッツイ怪物ばかりの世界に来ちゃったのである。
なにより、ゲームでは全く感じることがなかった、リアルな殺し合いが恐ろしすぎる!
この世界にいる男は、プロレスラーも真っ青な筋肉と巨体をしてる奴がわんさかいる。
女も女で腕っぷしが強い、強すぎる!
そんな奴らばかりの世界で、俺ことレオンはそこそこ長身ながらも細身で、いくら鍛えても強くもならないし、魔法だって覚えられない。
伯爵とは言っても、この世界には他に有力な貴族は星のようにいる。だから権力面も、なんかイマイチ。
ちなみに原作でレオンはボスの一人として登場しており、主人公達と実際にバトルすることもある。
だが、レオンに苦戦するプレイヤーは皆無だったに違いない。見た目はカッコいいかもしれないが、死ぬほど弱いのだ。
当時の攻略本には敵のデータ一覧があって、レオンについてはこんな説明が書かれていたっけ。
【物理攻撃も魔法も最低クラス。ここまで来たプレイヤーで負ける人はいない。こんな奴が仲間じゃなくて良かった】
俺は当時このデータを目にして、「やっぱなー。雑魚だもんなぁアイツ」と編集者の手酷い評価に納得したものだが、いざ本人になってみると辛辣さが分かる。
ってか、そもそも誰とも戦う必要なんてなくね?
まともな生き方をすればいいじゃん! と思ってみれば……なぜか悪い連中が寄ってきて原作どおりになってしまう。
俺の部下には魔物がいっぱい。望んでもいないのにアイツらやって来るし。
思い出しただけでしんどくなってきた。要するに俺は詰んでしまった。
勇者達は俺を悪の黒幕と思いこんでおり、すぐに暗殺するべくやってくるかもしれない。
でも死にたくはない、マジで。
なんとかして生き延びる方法はないのかしら?
……と寝る間も惜しんで考え続けた結果、一つの方法を思いついた。
この際、俺は家を捨てて名を変えて、遠い遠い地方へと逃げる。そこであるビジネスのオーナーとして大成するのはどうだろうか。
俺が考えたビジネスというのは、温泉を掘り当てて経営することだ。
実はこの世界には、今のところ温泉がない。
綺麗好きな紳士淑女達は、寒い季節であろうと、毎日水浴びしちゃってるわけである。
でも、ずっとこういう世の中が続くわけではない。俺が知っている原作には続編があり、百年後の世界になれば風呂や温泉が登場する。
だが、その続編世界ですらほぼ全ての人が知らない、神秘の秘湯というものが登場する。
この秘湯は原作の続編で、プレイヤー達だけが入れるレアなものだが、入浴の効果はあまりにも凄まじい。
疲労回復や血行促進、ストレス改善やさまざまな病気に効果がある……だけではない。
なにしろ、大抵の病気は本当に完治してしまうし、傷を負ってもみるみる塞がる。
リラックス効果も段違いな上に、原作の主人公達のリアクションを見る限り、入っているだけで途方もない快感が得られるようだ。
他にもありとあらゆる効果を有してるらしく、まさに神秘の秘湯。
ちなみに獲得経験値がアップする効果や、入浴するだけで得られるスキルもある。
それだけじゃなく、まだまだ秘密の効果がある。攻略本では神の温泉とさえ表現されたほどだ。
その秘湯を手に入れて、旅館なんか作っちゃったりしたら?
想像してみると、これまで絶望一色だった脳裏に、燦々と希望の光が降り注いだ気がした。
だってボロ儲け間違いなしじゃん。少なくとも飢え死にすることはないだろ。
でも俺がいる原作の時点では、秘湯はマップ上にも登場していない。
だったら、掘り起こせばいけるんじゃないか。
名付けて、辺境逃避行秘湯発掘作戦は思いついたその日に始まった!
まずは光の速さで弟の元へと向かい、当主の権限を譲渡した。
弟には止められたが、もう時間がない。勇者の剣先は俺を捉えているに違いなかった。
続いて必要なだけの金を持ち、冒険者ギルドに行って温泉を掘るための依頼を行おうとした。
伯爵としての名前で活動していると、勇者達に足跡がバレてしまう。
なので偽名を用いて募集をかけてみたのだが、誰もやってくれる人はいなかった。
悲しい。秘湯について説明しても、「そんなものあるわけない」と信じてもらえないのだ。
さらに、信頼できる貴族にも相談してみたが、彼らも一様に渋っていた。
温泉という存在がまだ一般的ではなく、「掘ったら出てくるんです」と言われても信じてもらえないのは当然と言えば当然。
どうしても行き詰まった俺は、最終的に自分が現地で秘湯を掘り起こすという行動を選んだ。
というか、もう少しで到着するはずなんだけどな。もしかして道に迷ってないか。
いや、大丈夫だ。地図の上では、確かにこの道で問題ない。
そう何度も自分を鼓舞しつつ、歩みを続ける。
長い、本当に長い道を進んだ。険しい山道では、いつどこで魔物に襲われるか分からない。
一応、安全なルートを選んだつもりだけど、このまま辿り着けるか不安になってきた。
何より、携帯野宿セットやツルハシなどが重い。この痩せた体にはキツくてしょうがない。
失敗したかな。でも、この選択はあながち間違ってなかった気がする。
途中に立ち寄った村で、俺の邸に勇者達が訪問したという噂話が耳に入ったからだ。一歩遅かったら殺されてたかも。
それから一週間以上、俺はただひたすら山道を進んでは超えた。ようやく見えてきた川は、たしかに地図の通りになっている。
「着いた……着いたぞ」
俺は原作のフィールドを覚えているので、眺めと照らし合わせてどこら辺か推測できた。
「この辺りだ。いや……なんか……めちゃくちゃ広くね?」
ただ、ちょっと想定とは違っていたことがある。思っていた以上に広い。
もし男湯、女湯とか沢山作るんだったら、そりゃもってこいな広さかもしれないけど。
問題は掘るのが俺一人ということだ。
「いや、関係ない。やってやる。ここまできたら何年かかってもやってやるぞ!」
しかし、もう俺はこの秘湯に人生をかけている。帰る場所などない。死ぬ気で掘ってやる気満々だった。
何年かかろうが、秘湯を掘り当ててこの世界初の温泉旅館を誕生させてみせる。
背中から下ろしたツルハシを、凍える手で握り締めていた。
だが、そんな決意を固めていた時に限って、予想外の出来事が起こるもの。
背後からブオオー! という法螺貝の音が鳴り響いた。
ハッとして振り向くと、俺より防寒対策万全なゴブリンが数匹いるんだが。
「見つけたでヤンスー」
空から声が響き渡る。見上げてみると剣を手にしたガーゴイルが五匹ほど、くるくると回っている。
や、やばい……!
ゴブリン三匹なら俺でもいけるか、なんて思っていたらあんなバケモンどもが現れるなんて。
しかし、それだけではない。ドシーン、ドシーンという響きが伝わってくる。
「あ、あああ」
なんと身の丈八メートル以上はあるゴーレムまでもが、ここにやってきてるんですけど。
なんてことだ。俺、終わったかも。
逃げようとしても、もう流石に追いつかれるのは必至だった。
まさか自分が利用していた魔物達に利用されるなんて、なんて悲しい末路。
さようなら俺……悲しい二度目の人生だったわ。三度目あるかな、多分なさそう。
……と、絶望していた矢先だった。
「ご主人様!」
ゴーレムから美少女ボイスがした。
「え?」と幻聴を疑って目を向ければ、デッカいモンスターの肩に、黒髪のメイドがちょこんと座っている。
「お前は……イスカ!」
勘違いだった。
ゴブリンもガーゴイルもゴーレムも、よくよく見れば仲間だった連中である。
どうやら彼ら彼女らは、俺を追いかけてここまで来てくれたらしい。
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