パーティー追放? 好都合だ。これで心置きなく土をいじれると思ったら、俺の『土狂い』スキルが規格外すぎた件
人とAI [AI本文利用(99%)]
第1話 追放と解放
「おい、ノア! 聞いてんのか!」
鉱山町ストーンクレストの冒険者ギルド前。Cランクパーティー『疾風の剣』のリーダー、ダリオの怒声が響き渡った。陽気な鉱夫たちの喧騒が、その一角だけ凍りつく。
「今日のダンジョン、てめえのせいでどれだけ時間を無駄にしたと思ってる!」
ダリオの隣に立つ魔法使いの女も、剣士の男も、苦虫を噛み潰したような顔で、パーティーの最後尾に立つ一人の男を睨みつけていた。
男の名はノア。土汚れのついた丈夫な作業着に、伸び放題の無造作な髪。Fランクのプレートを胸に下げた彼は、仲間たちの怒気を浴びながらも、どこか虚ろな目でぼんやりと立っているだけだった。
「ロックリザードの群れが出た時、お前は何してた? 足止めの一つでもしろって言ったよな?」
「……はい」
ノアは静かに頷く。
「あの洞窟の壁、非常に興味深い地層でした。雲母(うんも)を多く含んだ花崗岩(かこうがん)で、あれだけ脆いのに魔力が安定して定着している。おそらく、土台となる地盤に希少な魔鉱石が……」
「そんな土の話を聞いてんじゃねえんだよ!」
ダリオの堪忍袋の緒が、ついに切れた。
「俺たちが必死に剣を振るってる間、お前は壁の土をこねくり回してただけじゃねえか! お前の【硬化(ハードン)】なんて、せいぜいぬかるみを固めるくらいしか役に立たねえんだよ!」
「そんなことは……ありません。あの壁の土に適切な圧力をかけて硬化させれば、鉄鉱石に匹敵する強度が……」
「もういい!」
ダリオはノアの言葉を遮った。その声には、怒りを通り越した疲労と諦めが滲んでいた。
「お前の土いじりは、とにかくテンポが悪いんだよ! 戦闘のリズムが全部崩れる! 俺たちは疾風の剣だぞ? 『土いじりの剣』に改名しろってのか?」
仲間たちの冷たい嘲笑がノアに突き刺さる。だが、ノアの表情は変わらない。彼はただ、自分の汚れた指先に残る、先ほどの洞窟の土の感触を思い出しているかのようだった。
「ノア・テラ。本日をもって、お前を『疾風の剣』から追放する」
最終通告だった。
ギルドの前を行き交う冒険者たちが、何事かと遠巻きに見ている。追放という、冒険者にとって不名誉な宣告。普通なら、ここで泣き叫ぶか、反論するか、あるいは絶望に打ちひしがれるか。
しかし、ノアの反応は、そのどれでもなかった。
「……そうですか」
彼はただ、静かにそう呟いた。
「わかりました。今まで、お世話になりました」
あまりにも淡々とした、感情の乗らない返事。その態度が、さらにダリオたちを苛立たせる。
「ちっ、最後まで気味の悪い奴だ。さっさと行け! お前の分の報酬はこれだけだ!」
ダリオは銅貨数枚を地面に投げ捨てると、仲間たちと共にギルドの中へ消えていった。
一人、その場に残されたノア。
周囲の冒険者たちからの同情や好奇の視線が突き刺さる。だが、彼の耳にはもう、何も入っていなかった。
彼はゆっくりと屈み込み、投げ捨てられた銅貨ではなく、その傍らにある地面の土を、そっと指でつまみ上げた。
(街の往来で踏み固められた土……家畜の糞尿、荷馬車の鉄輪から削れた鉄粉、様々な成分が混じり合って、独特の密度を生み出している……)
追放されたことへの悲しみも、怒りも、彼の心には一欠片もなかった。
それどころか、まるで重い枷から解き放たれたような、静かな歓喜が心の奥底から湧き上がってくるのを感じていた。
(パーティーにいる間は、ダンジョン探索が優先だった。戦闘の合間にしか、土を観察できなかった)
彼はゆっくりと立ち上がる。
(魔物の素材よりも、宝箱の中身よりも、僕はいつでも、その場所の『土』にしか興味がなかった)
戦闘。連携。テンポ。
そんなものに、意味があるとは思えなかった。土の組成、密度、魔力伝導率。世界の真理は、すべてそこにある。彼にとって、それ以外の全ては取るに足らない些事だった。
(ああ、これでいいんだ)
ノアの虚ろだった瞳に、初めて明確な光が宿った。それは、獲物を見つけた狩人のような、あるいは神の啓示を受けた求道者のような、異様なまでの輝きだった。
「これで心置きなく、土と向き合える……」
誰に聞かせるでもない呟きは、街の喧騒にかき消された。
彼はギルドに背を向け、報酬の銅貨を拾うことさえ忘れて歩き出す。向かう先は、パーティーの宿舎ではない。彼が、これまでの冒険で得た全財産をはたいて手に入れた、たった一つの場所。
ストーンクレストの街外れにある、誰も見向きもしない岩だらけの荒れ地。
農業にも建築にも適さず、ただ雑草が生い茂るだけの不毛の土地。
だが、ノアにとっては、それが世界で最も価値のある場所だった。
これから始まる、誰にも邪魔されない、無限の探求。理想の土を、理想の硬度を、理想の質感を追い求める、至福の時間。その想像に、ノアの口元が微かに綻んだ。
彼の異常な探求は、今、静かに幕を開けようとしていた。
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