第10話:エピローグ
―三年後。 私たちは高校二年生。 同じ私立の女子校、制服は紺のブレザー。 夏帆は生徒会長、私は図書委員。 ――相変わらず、天才と凡人。 ――でも、もう誰もそう言わない。 私たちは「稲崎さんと梅村さん」じゃなく、 「美玲と夏帆」になった。
四月。 新入生歓迎会の後。 校庭の桜が満開。 ――あの春を思い出す。 ――中三の春。 ――夏帆が、私の部屋に来た日。 私は、桜の木の下で、夏帆の手を握った。 ――温かい。 ――三年経っても、変わらない。
「ねえ、美玲」 夏帆が、振り返った。 ――髪、伸びた。 ――肩まで。 ――きれい。 「大学、どこ受ける?」 私は、瞬きをした。 ――大学。 ――もう、そんな時期。 私は、小さく笑った。 「……夏帆と同じとこ」 夏帆は、目を丸くして、 「え、でも――」 「私、頑張る」 ――数学、まだ苦手。 ――でも、夏帆が教えてくれる。 ――三年間、ずっと。 ――私、変わった。 ――何もできない子じゃ、ない。 ――夏帆と、一緒にいるから。
夏帆は、涙を浮かべて、 「……ありがとう」 ――ううん。 ――私こそ。 私は、夏帆を抱きしめた。 ――桜の花びらが、舞う。 ――春。 ――始まりの季節。
――高校生活。 ――文化祭では、二人でメイド喫茶。 ――夏帆が「ご主人様、おかえりなさいませ」と言うと、 ――男子校の客が大行列。 ――私は裏で、ケーキを焼いた。 ――「美玲ちゃんのチーズケーキ、最高!」 ――褒められた。 ――私。
――体育祭。 ――二人でリレー。 ――私がバトンを落としても、 ――夏帆が笑って、 「次、がんばろ!」 ――最後、ビリ。でも、 ――楽しかった。
――修学旅行。 ――京都。 ――夜、二人で部屋を抜け出して、 ――清水寺の舞台で、手を繋ぐ。 ――星が、きれい。 ――「ずっと、一緒にいよう」 ――うん。 ――約束。
――クリスマス。 ――冬の海。 ――告白した場所。 ――毎年、行く。 ――今年は、雪が積もってた。 ――夏帆が、雪だるまを作って、 ――「私たちみたい」 ――二人並べて。 ――かわいい。 ――写真、撮った。 ――スマホの待ち受け。
――バレンタインデー。 ――手作りチョコ。 ――夏帆が、朝からキッチンに立って、 ――「失敗した……」 ――でも、形はハート。 ――「美玲にあげる」 ――私も、作った。 ――「夏帆にあげる」 ――交換。 ――甘い。 ――幸せ。
――現在。 桜の下。 夏帆が、私の指に、そっとキスをした。 ――! ――人、いるのに。 ――でも、恥ずかしくない。 ――私たち、恋人。 ――三年経っても、 ――ドキドキ、する。
「美玲」 夏帆が、静かに言った。 「大学、合格したら―― 一緒に住もう」 ――! ――え? ――同棲? 私は、顔を真っ赤にして、 「……う、うん」 夏帆は、笑った。 ――えくぼ。 ――変わらない。 ――大好き。
――未来。 ――大学。 ――社会人。 ――ずっと、一緒に。 ――夏帆と。 ――私の、恋人。 ――私の、大切な人。
私は、夏帆の手をぎゅっと握った。 ――温かい。 ――ずっと、このままで。 ――私たち、幸せ。 ――これからも、ずっと。
桜の花びらが、二人を包んだ。 ――春。 ――始まり。 ――終わりじゃない。 ――私たちの、物語は、続く。
淡い春の光 凪 @gato_huki
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