呑気に魔法を探求していたある日、魔女として街から追い出された。〜魔女とは言うが、俺は男だ!〜
なうなす
第1話 魔女狩り
「最近街が騒がしいじゃないか。何かあったのか?」
二日ほど前から依頼が来なくなった。
何かとは思ったが、特に気にしていなかった。お金はまだあるし、街に出れば依頼なんていくらでもある。
「お師匠様、街には白教の司祭様が来ていたようです。何やら書物を渡して回っていたようですよ」
彼女はバートニー。数年前に路地裏で拾った少女で、親がいないとのこと。僕はなんとか親を見つけてバートニーにその事を話したら『帰りたくない』の一点張り。仕方なく弟子兼養子として迎えたというわけだ。
にしても書物……か。
あんなにケチな教会が一体何の書物を配布したのやら。
僕は考えることに疲れ、さっさと眠りについた。
……なんの音だ?
足音にパチパチと火の音が聞こえる。
なんだが罵声のようなものも聞こえてきた。
「うるさいなぁ……」
カーテンを開けると……こちらに大勢が松明片手に歩いてきている。
「魔女め!」
「観念しろ!」
「忌まわしき魔女め!」
僕が魔女?
男なのに?
面倒くさいが、説明のために家から出ることにする。バートニーはすやすやと寝ている。この騒音の中で寝るなんて凄いな。
「えぇ〜と魔女?」
「あぁ魔女だ!おとなしくしろ!」
……僕の事を知らないのか?
「僕は男だ。魔女なわけないだろう」
「……ふざ、ふざけているのか!お前は魔女だろう!街でも魔法を使っていたと報告がな」
「あぁ男の魔法使いだ。何が悪い」
魔女……?これはどういう事だ。集団の後ろの方にはいつも買い出しに行く八百屋のおっちゃんや、めっちゃがめつい雑貨屋の婆さんもいる。
「もう問答無用だ!連れて行け!」
「連れてって……行くわけないだろう。そもそも魔女というなら魔女を連行しろよ。僕は男!わからないのか?」
冷や汗が垂れてきた。
まずい、これはまずい。弁解が受け入れられそうな雰囲気ではないし、このままでは本当に連行されてしまう。
……この街には愛着があったのだが、仕方ない。
「わかった。わかった。街から出ていくよ──」
やけに左肩の辺りが熱い。
……槍だ。槍が肩を貫いている。
「あぁあああ!!!」
痛い痛い痛い痛い!
槍!?投げられたのか。
まずいまずい。本当にまずい。
反射的に回復魔法を使ったせいで槍は少しずつ身体に食い込んでいる。
少しだけ眠かったはずが、痛みで一気に現実に戻される。
「魔女に当たった!」
「街に悪魔を呼ぼうとする醜女がぁ!」
「死ね!死ね!」
集団は痛みに悶える僕に罵声を浴びせる。
「悪魔召喚の道具も燃やさないといけないからな」
家……バートニー!?
このままでは……バートニーが危ない。
だが、痛みでまともに何か出来そうにもない。が、責任を持って師匠をしていた僕。せめてバートニーだけでも……!
『バートニー!』
魔法を使ってバートニーを起こす。
『財布を持って裏口から逃げろ!』
上手くいったか……?
じわじわと視界が狭まっている。
「あぁぁああ!!!」
足の辺りに杭か何かを刺された。
「……このまま燃やせ」
……あれは、神父さん?
あんな顔をするのか。冷酷で、憎しみに満ちた顔。いつもニコニコと街で白教の慈愛の節理を説いていた彼が。あんな顔を。
みんな、みんな、なにをそんなに恐れているんだ。
魔女……?なんだそれは。言葉は分かるが、この行為は意味が分からない。
わからないなら知りたい。これが僕の信念であり、生きる目的である。
「こんな所で死ねるかよぉ!!!」
杭の刺さった足の付け根を魔法で焼き切りながら、必死に魔法を構築し、なんとか形にする。
使い魔召喚、ゴーレム。
周囲の土が集まって人形になる。すぐにゴーレムは動き出して僕を抱きかかえ、街から離れていく。
「魔女が逃げた!追え!」
「魔女を許すな!」
あんなに優しかった人たちが、なにを知ればこんなったのか。
ふとバートニーとの会話を思い出した。
「書物……?」
この先、こんなことになった理由を知らなければいけない気がする。
何があって、誰が、何のために行ったのかを。
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