灰の村の鍛冶見習い、英雄になるまで__

It's so me

灰の村の鍛冶見習い

火の粉が夜空に舞い上がる。

村が焼かれていた。

人々の悲鳴、鉄の匂い、倒れる音。


——それが、オレが前の世界で最後に見た光景だった。


工場での徹夜明け。突然、天井が崩れ落ち、炎が視界を覆った。

気づけば目の前に見知らぬ森。

右手に錆びた剣。

背中には奇妙な刻印。


「転生……ってやつか?」


自分でも信じられないが、どう見ても異世界だった。


「おい、ユウ。今日も炉の火が弱ぇぞ!」


怒鳴ったのは、鍛冶屋の親方・ガルド。髭面で熊のような体格をした男だ。

オレ——ユウは、この「灰の村」で鍛冶屋の見習いをしている。

転生してから三年。最初は言葉も通じず、野犬みたいに扱われたが、今ではどうにか「人間」として扱われる程度にはなった。


「すまない、親方。炭が湿ってるんだ。昨日の雨で……」


「言い訳すんな。鍛冶は火が命だ。火を扱えねぇ奴は職人じゃねぇ!」


——まったく、その通りだ。


だが、この世界の「火」はただの火ではない。

魔力で燃える「魔焔(まえん)」という特殊な炎で、魔法使いしか自在に扱えない。

貴族や魔導師はそれを生まれつき使えるが、オレのような“平民”には無理な話だった。


だが、それでもオレは諦めなかった。

どんなに笑われようと、蔑まれようと。

だって知ってるんだ。

——火を制する者が、この世界を制する。


ある夜。


鍛冶場に一人残って、試していた。

「魔焔を……自分で作り出す」方法を。


工場で働いていた時に身につけた、熱と酸素と圧力の知識。

そして、転生してきて気づいた——オレの中にはわずかな「魔力」が流れている。


(魔法の詠唱は使えねぇ。でも、理屈でならできるはずだ……)


鉄を打つ槌を握り、集中する。

イメージは、爆発直前の火花。


「点火——!」


ボッッッ!!!


赤い閃光が、炉を照らした。

手の中に、小さな火球。

だが、確かに自分の手で生み出した火だった。


「……やった……!」


それは、平民が絶対に持たぬはずの力。

この世界の常識を、覆す力。


翌日。


「親方、見てください!」


オレは再び火を起こして見せた。

最初、ガルドは呆然とし、それから大声で笑い出した。


「ハッハッハッ! 面白ぇじゃねぇか、ユウ! こいつは村の誇りになるぜ!」


その笑い声を、外から貴族の騎士たちが聞いていた。

灰の村に伝わる噂——「平民が魔法を使った」。


それが、オレの運命を変える最初の一歩だった。

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