3 人
ゴブリンを倒してからはすることも決まっていなかったので木々の中を歩いていた。
足場は人が整備していないような道でかなり体力が持ってかれる。
とりあえず今は拠点にしやすい場所を探している。
開けた場所ではいつモンスターに襲われるかわかったもんじゃないからな。
ついでに他の参加者も探したい。一人でいると寂しい気持ちにもなる。
常に周りを警戒しながら歩くというのは精神が削られていく。
早く良い場所を見つけなければ俺の体力よりも精神が耐えられないな。
そんな警戒心が功を奏したのか少しの物音が聞こえた。
俺の足音ではない音。
またゴブリンかと思ったが、その音は一度聞こえたが、もう聞こえない。
確かに一瞬ではあったが、聞こえた。
自然現象ではない何かが草木を踏みつけた音。
まるで俺の接近に気がついて音を消したみたいだ。
ゴブリンはそんなことをしないと思う。
2度戦っている、知能が高いようには見えない。
別のモンスターか?
ゴブリンよりも知能が高くて頭の働くモンスター?
なんだ?この嫌な感じは
今までに感じたことのない感覚
まるで『死』そのもののような
やばい!
俺はその瞬間、木の裏に身を隠した。
同時に辺りに銃声が響く。
第六感のような感覚で咄嗟に木の裏に隠れることができた。
反応強化のおかげか、俺は銃弾の軌跡を目で捉えることができた。
危なかった。あと一瞬遅れていれば頭に銃弾が貫通していたかもしれない。
ゴブリンを2匹も殺せたことで浮かれていた。油断していた。
ここはいつ死んでもおかしくない場所だと思い出す。
俺は一旦息をついてから状況を整理する。
銃ということはほぼ間違いなくゲームの参加者だろう。
だが、明らかに敵対的だ。
見つけた瞬間に音を消して狙撃してくるくらいには。
「おい!俺に敵意はない。会話に応じてくれないか」
そう呼びかけるが、相手側から返事はない。
音もしない。
つまり、まだ敵対的ということだ。
どうする?
剣と銃
接近武器と遠距離武器
どう考えても剣が不利だ。
逃げるか?
もし逃げている最中に追いかけてきて背中を撃たれたら?
先ほどのように避けることができる保証は一切ない。
一旦そこら辺に落ちている木の枝を音を立てながら投げる。
その瞬間に投げた方向に銃弾が飛んでくる。
向こうは殺す気満々だな。
わざわざ参加者同士で争うこともないだろうに。
逃げるか戦うか。
相手が銃ということは、1発でも当たれば致命傷になりかねない。
韋駄天のおかげで逃げやすくはなっているだろうが、背中を向けるのは怖い。
じゃあ、戦うか。
おそらく、こういった参加者同士の殺し合いは今後もあるだろう。
その度に逃げるわけにはいかない。
ゲーム開始前に見た拳銃の形状から射程は長くとも50mほどだろう。
つまり、その範囲内に相手はいるということだ。
今の能力なら50mは5秒ほどで走れる。
殺される前に殺す。
銃の軌跡からある程度の方角ははわかっている。
音がしないことから場所を移動していることもないだろう。
あとは俺が覚悟を決めるだけだ。
殺す覚悟を。殺される覚悟を。
「ふぅー」
よし、いこう。
俺は枝をもう一度音を立てながら投げる。
またしてもその瞬間に銃を撃たれる。
撃たれた瞬間に俺は木の裏から飛び出して、銃が撃たれた方向に走る。
銃を撃っている相手が見えた。
日本人ではない。
欧米系の人間だろう。
相手は銃をもう一発撃とうとする。
流石に反応強化を持っていても銃弾を見てから避けるなんていう物語のようなことはできない。
だが、銃口の方向からある程度の軌跡の予測はできる。
そして、その軌跡に重ならないように身体を移動させる。
相手も俺が移動した先に銃口を合わせるが、重ならないように俺が動いているため、なかなか銃口が定まっていない。
あと10m
「あああああ」
俺がどんどん距離を詰めていくと相手は叫びながら銃を乱射してくる。
だが、乱射しても俺に銃弾が当たることはない。
そして、剣の間合いに入る。
「助け…」
俺は相手の首を速攻で刎ねた。
男の首が地面に落ちる。
なんとか勝ったのか…
はぁ。疲れた。
だが、何か違和感。
別に先ほどのように『死』のように危機を感じるわけじゃない。
俺自身の感情にだ。
「いやぁ。やばいかもなぁ」
顔を触る。
口角がとても上がっていた。
俺は人を殺して笑っている。
人を殺したら後悔したり、気持ち悪くなったりする描写が物語ではあるが、俺はそんなもの一切なかった。
これはゲーム側に何かされているというより、元々俺自身がヤバイ気がする。
まさか自分にこんな一面があったとは。
平和な日本では一生気づくことは無かったな。
別に人を殺したいというわけじゃない。
命を懸けての戦い。勝利の快感。殺しの快楽。
まあ、デスゲームで悪いことではないのかもしれないが人間としては終わってるな。
『人間を殺害しました』
『1ポイントを獲得』
『称号殺人を獲得』
『スキル反応強化LV1を獲得』
『同種スキルの獲得によりスキル反応強化をレベル2に上昇させます』
『プレイヤー初のプレイヤーの殺人を確認』
『称号殺人狂を獲得』
『スキル偽装を獲得』
うっわ。何か物騒な称号を手に入れてしまった。
殺人狂って。
別に殺されそうになったからやっただけなんだけどな。
まあ、笑ってるし、殺人狂と変わりないのかもしれないか。
てか、もらえるの1ポイントって美味しくねえな。
ゴブリン以下じゃん。
本当に人間同士が争うのは非効率的だ。
人を殺して笑っていたけど、やはり積極的に殺そうとは思わないな。
協力した方がメリットがでかいだろうしな。
あくまで敵対してきた場合に殺ることにしよう。
『全てのプレイヤーにお伝えいたします。初のプレイヤーによるプレイヤーの殺害を確認いたしました。これより、新たなミッションを追加します』
声が響いた。
ゲーム開始前の暗い部屋で聞いた声
内容は俺がプレイヤーを殺したことだ。
まさか俺が殺したことによって新しいミッションが出るとは。
「ミッション」
———————————————
只今ミッションはありません
残り人数99995
裏ミッション
プレイヤーの人数を1000人以下にする
報酬
生き残っている全てのプレイヤーのゲームクリア
———————————————
裏ミッション?
生き残っているプレイヤーのゲームクリア?
つまり、表のミッションは他にあるけど、選択肢として殺しまくってもクリアになるってことか?
要するに俺はパンドラの箱を開いてしまったのかもしれない。
これによって、プレイヤー同士の殺し合いが起こりやすくなる。
ゲームを終わらせるために殺しをするという大義名分ができてしまったからな。
まあ、俺がやらなくとも、誰かがやっていたと思うが、俺を殺そうとした奴とか。
とりあえず、今は疲れた。
休もう。
スキルの検証とかその他色々は休んだ後にしよう。
俺は興奮した精神を落ち着けさせながら木を背に休憩を始めた。
■■■
例え人を殺したとしても何一つペナルティは無い
一人のプレイヤーが99000人殺せばゲームはクリアされる
だけど殺した人間には『闇』が溜まっていく
いつの日かその『闇』は牙を剥く
それは自分にかもしれないし他の誰かかもしれない
未来は誰にも分からない
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