三十五章★美しい世界(2)
「入団おめでとう」
フィンリーは空いている席に座って、お祝いの言葉をかけた。ケリーがお礼を言った。レオンはフィンリーの首元に注目した。ケリーが教えてくれたように、彼は内地防衛部隊に所属している。首元に所属する部隊を象徴するバッヂがあった。ラファエルも同じ内地防衛部隊のバッヂで、ラングラスは魔獣討伐部隊のバッヂを着けている。
「髪の毛、切っちゃったんだね。もったいない」
ラファエルが切なそうな顔をしてケリーを見つめる。耳が露出するまで切られたケリーの髪は、一瞬男性と見間違うほどサッパリとしている。男装した時の影響だと思われる。
「そうですか? 軽くて気に入っているんですよ」
「令嬢が急に髪を切ると、普通は大騒ぎになるんだがな」
ラングラスがからかうように言ってきた。
「私、元々清いご令嬢ではないので」
ケリーはサラッとラングラスの嫌味を流した。ラングラスは一人でほくそ笑んでいる。
「明日から魔法陣の習得訓練だよね。頑張ってね」
ケリーはフィンリーの励ましを受け、「はい」と微笑んだ。
「そういえば、女子寮ってケリーしかいないんだよね?」
アーサーがカレーを食べながら、寮の話題に変えた。
「一人で大丈夫なの?」
「あー、掃除が大変かな。二人部屋だし。防犯グッズならメズリにたくさんもらってて、上司にも気を遣ってもらってるから大丈夫。設備は男子寮と同じだって聞いたし……」
「え、ってことは、女子寮にも大浴場があるの?」
「いや、それはない。部屋に一つ浴槽とトイレがついてるよ」
「じゃあ本当に掃除が大変なんだね」
「そう。毎日浴槽とトイレを洗うの。ルールだからね」
一人で広い部屋に寝て、あまり溜まらない埃の掃除をし、浴槽とトイレも掃除する。魔法を使うにしても、そこそこ時間がかかるし疲れることだ。
「でも、レオンだって一人で暮らすじゃない? しかも、元々は先生の暮らしていた家。大きいんでしょ?」
「この実習中は寮で暮らすから……ケリーよりは大変じゃないよ。俺、魔獣討伐であまり家に帰らないし」
「あ、そっか」
自立したことで、ケリーは完全に孤立状態にある。同性のいない環境で、家族も近くにいない。今日の夜、激しいホームシックに襲われないか不安だ。今は毅然としているが、レオンも魔法陣の習得訓練が終われば、本格的にこの拠点から移転しなければならないし、アーサーも四六時中一緒にいるわけではないから、どうしてもケリーの不安を取り除くことはできない。
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