【第三部】エンドロールはありません。

夏野夕方

三十五章★美しい世界(1)

 魔法士団の入団式は、とても厳かだ。ランドール・アントバーが団長として祝辞を述べた後、現団員から直々に礼儀を徹底して習う。一ヵ月後、正式に団員として迎えられる人間は、国王陛下に忠誠を誓うことになるからだ。

 今年の入団人数は、例年通り千人。入団の試験は二つある。まずは、エズモンド学院からの試験。もう一つは、ランドール・アントバーのように、軍経験を経てからの入団。エズモンド学院からの入団希望者が圧倒的に多く、九割は学院出身者である。女性の入団はまず珍しく、二・三年に一人入団するくらいの頻度。だから千人の内、女性で入団した人は、ケリー・スリフト以外にいない。

 その事実を、入団式の間ずっと考えていた。不幸だと思っているわけではない。自分より過酷な環境だろうなと、安易な想像をしたまでだ。

 入団式を終え、各部隊の役割とこれから身に着けなければならない能力についての、あらかたの説明を一日通して詰め込まれた後、疲れ切った同僚たちの中から、ケリーとアーサーを見つけて、話しかけた。ケリーは早速、いろんな男子に囲まれ、質問攻めを受けていたが、時折笑顔で相槌を打ちながらも、質問の内容には「お答えできません」と返していた。ケリーが注目されるのは無理もない。彼女は三年ぶりに入団してきた、たった一人の女性だったからだ。

「ケリー、今大丈夫?」

 アーサーを連れて話しかけると、ケリーはすぐにこちらを向いて、笑みを浮かべた。

「それでは、お話は今度ということで。次回はプライベートな質問はお控えください」

 ケリーは丁重に挨拶をして、ササッとむさ苦しい男の集団から抜けてきた。

「晩御飯だよね?」

「そう」

「……なんかケリーにだけめちゃくちゃ絡んでくるね。他の女性もいるのに」

 アーサーはチラッと視線を向ける。確かにケリーの他に数名女性はいるが、みんな配偶者がいて、さっさと帰ってしまう人ばかりだった。それに、ケリーは唯一魔法士団の寮に入っているため、拘束時間が誰よりも長いのが一番の要因とも言える。

「仕方ないよ。私、能力によっては兼任するかもしれないって言われているし……研究・管理部は女性が多いから、いろいろ訊きたいことも多いんだよ」

「だったら、他の人にも訊けばいいじゃん。明らかにケリーは舐められているって」

「一番下っ端なんだから、どうしようもないでしょ」

 ケリーは、苦笑いしながら言った。

「そういえば聞いた? フィンリー先輩、内地防衛部隊にいるんだって。意外だよね」

 レオンとアーサーは、ケリーの感覚に同意した。フィンリーは実践でもかなり優秀な成績を収めていたので、てっきりラングラスと一緒に、魔獣討伐部隊へ行ったのかと思っていたのだ。

 ――ケリーと一緒にいたいからか?

 フィンリーが集団の中で生きていくには、あまりにも能力の無駄遣いのように感じる。

 三人は食堂に向かい、固まって席を取って食事をし始めた。そこに同じ一年目の人たちもやってきて、一緒に食事をとりたいと言われたが、後ろからフィンリーを筆頭に続々と見知った顔が現れたので、静かにフェードアウトしていった。

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