時代の変化のなか、その大樹は

 君主のもと、六卿が話し合い、国を動かす。
 春秋時代の晋はそういう国で、その六卿は世襲ではないが、ほぼ世襲的に入れ替わる。
 世襲ではないが世襲的に、というのは、当時の教育の在り方からすれば致し方ないところだろう。
 国内の政治状況、諸外国との政治的摩擦、軍事。
 いくら自分に才知があっても、なまの情報は「知っている者から教えて貰う。盗み取る手を持っている」必要があることを思えば、親から子へ、伝えるしかないからだ。

 が、完全には世襲ではない。
 なぜなら、国内には当然、権力闘争があり、それに敗れた家は沈む。
 そして新しい家が、六卿の一角を占める。

 本作は春秋時代の晋と楚の有名な戦い「邲の戦い」を転機として、晋の政治の動乱を描くのだろうと思う。
 私はじつのところ登場人物と(その家の)行く末をある程度知ってはいる。
 が、そもそも春秋時代は記録がすくなく、どれだけ詰めていっても余白は残る。
 だから歴史そのものをしらなくても、本作は楽しい。
 作者のいま(十二話時点)播いている種がどう育つのか、ちらちらと過る楚との戦争に突入してゆこうとする政治の駆け引きとともに追ってゆくだけでも充分に楽しい。

 作者は、資料を詰めていっても詰め切れないその余白を、魅力的な登場人物たちの関係で埋めていく。
 成長する主人公、政治家としては付き合えても、友人にはできない同世代、政治家としてはたよりなくても友でありたいと願う者。
 そして老いて去りゆく親世代。
 それぞれに「生きている」。

 どれほどの大樹であろうと、やがて倒れる。
 主人公が新しい大樹をその根元に育て得るのか。
 その樹の根元にはいったいなにが埋まっているのか。

 楽しみな物語である。