第41話

「あー、いや、違う、後ろをついて回ってることを謝っているんじゃなくて」

 そっちは悪いと思ってないの?

 ヴァルさんが頭を上げて地面に座り込んだ。

「……森を抜けたら草原が広がり、2日ほど歩いた先に村の一つも見えてくるはずだったんだ」

 目の前に広がっているのは、草原とは程遠い荒野。

 赤茶けた大地が広がり、大小の岩や石が転がっている。植物は探せば背の低い木や雑草がところどころ生えてる感じだ。

 それが、森を抜けたところに突然広がっていた。ずっと遠くまで見渡す限り荒野。

 あ、回転草だ、初めて見た。

 西部劇みたい。風に吹かれてくるくる回っていく草。

 そうか。

 風は、荒野にも吹くんだ……。

 でも。

 精霊さんは森から離れないよね。エルフを加護してるなら……。もう、ここでお別れかなぁ……。

 そう思うと、寂しさとともに後悔が押し寄せてきた。

 いくらヴァルさんを助けたかったからといって、脅すようなことを口にした。私を護ろうとしてくれた精霊にさんに……。

 考えてみれば、私は精霊さんにお願いするばかりで、助けてもらうことが当たり前になっていた。

 私のお願いを聞いてくれないことにショックを受けたのも間違いない。

 なんて傲慢なんだろう。

 言うことを聞いてくれると当然のように思っていたなんて。精霊さんは私の奴隷でも何でもないのに。無償の愛……のようなもので私を護ってくれていたのに。

 当たり前になって我儘になっていた。

 今だって……。

 ヴァルさんが私のことを心配してくれるのは当たり前のことじゃない。

 ヴァルさんが助けてくれるのも当たり前じゃない。なのに、謝らせてしまった。

 別にヴァルさんは何も悪いことはしていないのに。

 私が、迷惑をかけているのに。

 恩を返したい。

 役に立ちたい。

「ヴァルさん、何を謝っているの?」

しゃがんで頭を下げているヴァルさんの顔をしたからのぞき込む。

「いや、だからな、えーっと……」

 ヴァルさんが座って小石を拾い地面に絵を描き始めた。

 なぜ突然のお絵描き?

 と、思ったらどうやら地図のようだ。

「ここがエルフの森と呼ばれれる場所だ。空気中の魔素濃度が濃く、魔物も多い」

 丸が描かれ、その上に三角、下に波線、右に四角、左に小さな丸がいくつか描かれる。

「森をこっちに抜けると山がある。山を越えないと人間の街に出られない」

 三角が山ね。

「逆側に抜ければ海がある。海って分かるか?でっかい川、いや湖?とにかく一面が水の場所だ。その海を渡らなければ人間の街に出られない」

 波線が海だったのか。

「で、今いるのがここだな。荒野だ。荒野を抜けなければ人間の街に出られない」

 いくつかの丸は石や岩を表しているんだろうか?

「行こうと思っていたのは、ここだ。草原が広がり、2日ほどで人間の住む街に行ける」

 まったく逆方向に出ちゃったんだ……。まさか、右と左とか、西と東とかが混ざっちゃうタイプなのかな……。いるよね。うん。分かる分かる。

「つまりだ……分かるか?」

 ヴァルさんが私の目を見た。

 首を横に振る。

「分からない、ねぇ、ヴァルさん」

 ついっとヴァルさんの描いた地図を指さす。

「この四角は何?」

 三角と波と丸は分かったけど、草原の四角ってなに?草原って四角くないよね?

「ああ、家だ」

「家か……」

 日本の記憶で描く家は四角じゃなかったから気が付かなかったよ。

「で、分かるか?」

「ああ、うん、なんとなく。エルフの森にめったに人間が来ない理由は分かったよ。魔物がたくさん出て危険なのと、地理的に、三方が山と海と荒野に囲まれていて、行きにくいんだね」

 さらにエルフは閉鎖的排他的人間嫌いだから、人間も近づきたくないんだろうな。

「え?あ、いや、それはそうなんだが、そうじゃなくて、つまりだ。俺はこっち……草原に向かってるつもりだったそれが、間違えちまったんだ。スマン」

 また、ヴァルさんが謝った。

「なんで、謝るの?謝らなくていいよ」

「また森の中を移動する必要が出てくるんだぞ?」

「ヴァルさんが一人で行動していたら、ああ、間違えちゃったで終わる話だよね?ヴァルさんは謝る必要なんてなかったでしょう?私の……」

 ぐっと服を握りこんだ。

 そして、俯く。

「私がいなければ……」

 村ではお前なんかいなければいい、短耳の無能が何で生まれてきたの、邪魔者、エルフの恥といくらでも存在を否定されてきた。

 でも、自分で自分がいなくなればいいなんて思ったことはなかったのに。

 今は、私がいるせいでヴァルさんに迷惑をかけているのだと思うと、消えてなくなりたい……。

「何を言ってるんだ、フワリっ」

 ヴァルさんに両肩を掴まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る