第36話 総力戦なのに全員ポンコツ ― 観測者チーム、そろそろ息を合わせてくれ

魔獣2体の咆哮が森に響く。

カナと合流した直後

――休む暇もなく、追撃が迫っていた。


「来るぞリクさん!!」


「見りゃわかる! デカい! 早い!!」


『観測報告:彼ら、さっきより元気です。

 回復しないでください。』


ピィとプニが「ぷにー!!」と

泣きながらリクの足元をくるくる回る。


「よし、逃げても無駄だ。

 全員、そろそろ腹くくるぞ!」


「はいはい! 今日こそ“勇者仕事”っすね!!」


「観測者だっつってんだろ!」


カナは冷静に一歩後ろへ避ける。


「おふたりとも……せめて動きを合わせてくださいね。

 前回、敵より先に転んだのは味方ですよ。」


「俺たちの悪口全部当たってんの悔しいわ!」


魔獣が一斉に飛びかかってくる。


『リク、前方から斜め左へ回避。

 ジロウ、その逆向き。

 カナは――そのまま落ち着いていてください。』


「俺らだけ雑!!?」


しかし指示の直後、地面に光の紋様が広がる。


『Spectral Synthesis――簡易拘束フィールド。』


魔獣の脚が“ぴたり”と止まった。

足元だけがゼリー状に固められる。


「よっしゃミナ!!」


「ナイスっすミナさん!!」


二人は飛び出し――そして、


どんっ!!


正面衝突して同時に倒れた。


「痛ってぇ!!」


「なんで同じ方向に出るんすかリクさん!!」


「なんで同じ方向来るんだお前!!」


『観測報告:ふたりの動きが

 完全にミラーリングしました。

 ある意味、高精度です。』


「褒めてねぇだろそれ!」


カナがため息をつきつつ、

手に持った木の枝をすっと前へ出す。


「おふたりとも。こういうときは――こうです。」


軽く、枝で魔獣の鼻先を“ちょん”と突く。

途端に魔獣はぴたりと動きを止め、震え出す。


「……効いてる!?」


「なんすかカナさんそれ!?」


「犬と同じですよ。鼻先は弱点です。」


『観測報告:魔獣、

 感情パターン“しょんぼり”に移行。』


リクがスパナを構え直し、にやっと笑う。


「なるほどな。じゃあ俺は――こうだ!」


“カンッ”


スパナで地面を軽く叩く。

金属音が響き、魔獣がびくっと跳ねる。


「怖がってんじゃねぇか。おいおい……

 お前ら、実はビビりか?」


ジロウが笑いながら続ける。


「じゃあオレの《すごい顔》でも見せてやるか!」


「やめろジロウ!! それは敵味方両方に効く!!」


ジロウがドヤ顔を作った瞬間――


魔獣2体は


「ヒィッッ!!」


と叫び声を上げ、森の奥に逃げていった。


ピィとプニが感動している。


「ぷにゅぅ……!」「ぴぃ……!」


『観測報告:ジロウの顔、魔獣への威嚇効果100%。

 ただし味方への精神ダメージも65%。』


「なんでチーム攻撃なんだよ!!」


カナがほっと息をついた。


「……相変わらずですね。本当に。」


リクが肩を回しながら笑う。


「おう。相変わらずポンコツだよ。」


「でもまあ、悪くないっすよね。こういうの。」


『観測結果:

 本日の総括――“チームワークは悪いのに、

 なぜか勝つ”。』


「要約すんなミナ!」


四人と二匹は笑い合い、森の出口へ歩き出す。


異世界の風は今日も心地よく、

観測者チームは、だいたいポンコツで、

だいたい最強だった。

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異世界転生? 聞いたことねぇな。 もりちゅ @Morichu

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