第35話 カナ、混沌へ踏み込む ― 見つけたらだいたい走ってくる

カナ、森の真ん中で再会する ― ポンコツは磁石だ**


森の中を、リクとジロウが全力で走っていた。

そのすぐ後ろには、ピィとプニ(スライム2匹)。

さらにその後ろには――青黒い魔獣2体。


「ジロウ! そっちは行き止まりだぞ!」


「なら回れ右っす!! って

 言っても追いつかれてるーー!!」


ピィ「ピィーー!!」

プニ「プニィィーー!!」

魔獣「グルルルル!!」


――完全に死にかけである。


そんな混乱のさなか。


森の奥から“ひとすじの光”が差した。


リクが足を止める。


「……あれ。なんか、見覚えある光じゃねぇか?」


ジロウが目を見開く。


「え、これ……えっ、マジで……!」


光がゆっくり動き、木々の隙間から現れた人影。


黒髪を束ね、肩に記録端末。

静けさをまといながら、どこか暖かい微笑み。


カナ。


「……リクさん。ジロウさん。やっと見つけました。」


リクの表情が一瞬で崩れた。


「カナ……! 本当に……!」


ジロウは叫びながら全速力で飛びつく。


「カナさーーん!! 生きてたーー!!」


「ジロウさん、落ち着いてください。転びます。」


「もう転んでます!! 気持ちは前のめりっす!!」


カナは小さく笑い、そっと二人を見る。


「おふたりとも、大丈夫でよかったです。

《コメット》のみんなの気配が突然消えた時

 ……本当に心配だったんですよ。」


リクは照れくさく頭をかく。


「悪いな……心配かけた。」


カナは静かに首を振った。


「いえ。それより――」


ピィとプニが飛びついた。


ピィ「ピィー!!」

プニ「プニィー!!」


「うわっ、ちょ、カナに乗るな!!」


カナは困ったように微笑む。


「ふふ……あなたたち、元気ですね。」


「カナさんめっちゃ優しい!!

 このスライム、オレが抱っこすると

 食べようとするのに!!」


ピィ「ピィ(食うぞ)」


「言ったーー!!」


そんな再会のど真ん中で。


――ドォォォン!!!


魔獣2体が姿を現した。


「って、忘れてたああああ!!!」

「再会イベント中だって言ってるだろ!!」


カナが端末を展開した瞬間、

空中にふわりと光が漂った。


ミナの声。


『――転移完了。落ちます。』


「落ちる!?」


ぱんっ、という軽い音とともに、

空からミナが降ってきた。


『……着地成功。損傷なし。みなさん、ご無事で?』


カナが驚いた表情を浮かべる。


「ミナさん……! 本当に……?」


『はい、カナ。お久しぶりです。』


ミナのホログラムがやわらかく光り、

カナはほっと息を吐いた。


しかし魔獣は待ってくれない。


ジロウが叫ぶ。


「情緒と魔獣が同時に来てる状況!!

 リクさん! ミナさん! カナさん! 

 戦闘配置っす!!」


ミナが即座に演算光を展開する。


『観測者チーム――再集結完了。

 戦闘支援を開始します。』


「よっしゃあ!!

 やっぱ仲間そろうと心強いっすね!!」


リクもスパナを握る。


「行くぞ! 全員、突撃だ!!」


ピィとプニも叫んだ。


「ピィーー!!」

「プニィーー!!」


――こうして、

異世界の森で“観測者チーム”は

ようやく全員そろった。


そしてもちろん、トラブルもそろってきた。



仲間ってのはな、迷子になってもちゃんと

合流するもんだ。叫びながら走っていれば、なお良し。

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