第28話 元飴川さん
コウのモニターにも、駐留地域の外側で起きる狂乱は届いていた。
『……お前の勝ちだって、言いたいのか。
そんなに楽しいかよ、疫病のように死をばら撒いて!?』
「勝手にしやがれと言っている。
この程度の絶望にも耐えられないで、死んでいくやつなんてごまんといるだろうけどね。やつらはみずからはおろか、隣人すら守り抜く気概がないんだ。
人間が持ちうる、個を愛するという執着がない――そんなものどもは、果たして人形とどう違うんやらね」
『ふざけるな!』
「コウ、お前のそういうまともなところは嫌いじゃないよ、正直今だって。
そもそも、ヤシャとしての郷の強襲だって、仕事の一環ではあった。
まぁ断らなかったから、責任は感じてるよ」
『な、に』
コウが愕然としていると、今度は浮橋機から声が聞こえる。
『この期に及んで、見苦しいんじゃありませんかね!?』
「別に信じなくてもいい。下手人はまぎれもなく俺だし、その時点でナノマシンを排出していなかった俺は、幻獣対策課からの密命で現地での攪乱工作に加担した。
その時点で、復讐はもののついでだね、父殺しをしろというより、エルフたちの信仰を揺るがし、大精霊の権能を弱めることで、額縁市側が実効支配領域を円滑に拡大できるようにしろってお達し、証拠なんてあるわけないよ。
俺はカス親に間接的なりにも復讐できるし、あり寄りっちゃありだと想って、『ヤシャ』という偶像を仕立ててあげたわけ。
まぁ氷室のやつも、エルフたちの集団自決を聞いたら流石に唖然としてたけど――あいつの計画本来は、長期的にはエルフを市の交易下で傀儡とすることだったから。
きみたち自身、市による異世界侵略の片棒担がされてたって、いまさら何がおかしい? マニフェスト・デスティニーだっけ、みたいな便利な言葉があるじゃない。
氷室課長の合理的手腕には、正直背筋ぞわってなるよねぇ。
ナノマシン抜いてからのアドリブには腐心したけど、それ以前はあの阿婆擦れの計画をなぞっただけでよかった」
『それで、懺悔は終わりですか』
今度の声は、リヒトからだった。
雫は嘆息する。
「……なんで僕ら、呑気に話してるんだろうかね」
『こんな戦いに、意味はないからですよ』
「それ、自分たちの努力を否定していないかな、影縞くん?
せっかく俺を倒すために、ここまで頑張ったんだろう」
『いいえ、勘違いしていますよ、アドバイザー』
「そう呼んでくれるのはうれしくないじゃなかったけど、元、だろう」
『じゃあ元飴川さん、聞かせてくださいよ。
あなたはほんとうに、殺したかったんですか?
復讐のために、エルフや額縁を壊すと誓っていたとして――彼らに直接手をかけた時、あなたはそれが嬉しかったんです?』
「――、参ったな」
元飴川ってなんだよ、こちとらどう足掻いたところで生涯先輩と籍入れられそうもないのに。
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