第5話 死体の数

 庁舎での報告を受けたのは副市長だった。


「報告ご苦労。明日改めて、こちらの方針を伝える。

 今日は自宅に戻るなり、ゆっくり休んでくれたまえ。

 ところで派遣部隊のほかのメンバーについてだが、どうかね」


 コウたちは互いを見合わせてから、また副市長へ向き直る。


「どう、と仰いますと」

「きみも知っての通り、派遣部隊へ配属されたみなは、魂魄鎧ソウルオーバーの使い手としても、高い適性を買われている。

 それは常人に踏み込めぬ土地での活動を可能とし、軍人でこそなかれ、探索者としてのきみらの伸びしろを市としても期待しているんだ」

「ありがとう、ございます」

「きみたちの上官としてついている、天知教官と飴川アドバイザーについてだ。

 あのふたりがきみたちの上官としてうまく機能しているか、きみたち当事者目線での話も聞いておきたいという話だ。悪くおもわないでくれたまえ。

 なんせ二人とも、新進気鋭だ」

「普通に上手くやっていると想います、だよな」

「おぅ、ええ」


 ヒサゴも異存はなかったが、副市長の反応はいま一つだった。


「とりわけ飴川くんについては、隊長のきみからも注意してやってくれたまえ」

「え」

「なに、アドバイザーという宙ぶらりんな肩書きだから、彼も手狭なことが多かろう。それにきみ、彼とは旧知だそうじゃないか。それともアレか、この程度で?」

「いえ、大丈夫です。私たちはうまくやっていけると想います」

「なら問題ないな」



 退室してからコウはずっと煮え切らない顔をしている。

 見かねてヒサゴも声をかけた。


「コウ、なぁコウってば」「?」

「しっかりしてくれ、副市長と話してからずっと上の空じゃないか。なにか気になることでも?」

「え、あぁ。いやせっかく再会したってのに、そういや飴川くん、やけによそよそしい気がして」

「あれで――あれでか?」


 いつぞや休息を勧められて、一押し買ってくれてたくらいだろうに。


「というか、前はもっとよく笑ってた……そんな気がする」

「成長すれば、誰だってそんなものじゃないかな。

 小中学校の頃仲良くても、あるいは久々に会ったらひとが変わったように見えて戸惑うなんて、よくあるだろう?

 俺だってこのまえ、中学の頃に十村ちゃんでとむっちゃんて女子いたんだけど、久々に会ったら髪染めててまーじビビっちゃったぁ、なんて」

「ごめん、なんの話?」

「聞いてすらもらえない!?」


 おどけるヒサゴに、コウは苦笑する。


「ごめんごめん、心配してくれてありがとうな。

 俺は大丈夫だよ。待ってる四人のためにも、さっさと戻らないといけないし、お互い頑張ろうぜ」

「おう!」


 コウたちは互いの拳を突き合わせた。



 エルフたちは蹂躙されていた。


「なぜだ」


(我々には七海の加護と魔法があるというのに!

 なぜあのバケモノ相手に、手も足も出ない!?)


『なるほど、勉強になったよ。

 魔法とやらの扱い、これまでは表層に纏うでいっぱいだったから』


 くぐもった男の声が、ヤシャから洩れる。

 干上がって割れた泉の中央にそれは立っており、周囲には突撃したエルフたちが死体の山ないし、輪のように積み上がり、枯れた源泉へ血の脈を注いでいる。


「貴様はいったい、……なんなのだ!?」

『精霊の意向に盲目的にひれ伏しながら、ただ独りを見放したばかりに、きみたちの代で報いを受けることになったんなら、不運だったとこれは諦めてくれ』

「ふざけたことを――」


 飴川機との交戦記録は見せてもらった、本来なら火線を集中させれば、弱点である搭乗席コクピットに届くはずだった。

 しかしあの黒い上体が、大抵の魔力とそれによって生じる現象を散らしてしまう。あんなもの、伝承や文献にさえ見たことがない。


『郷をひとつと、武装した魔導部隊を枯らした程度……まだ足らないな』

「!」

『死体の数が』

「なぜそうまで殺める!?

 罪なき子どもまで巻き込んで!」

『やだなぁ、子どもが死んだのはきみらが自発的にやったことだろう』

「な、に」

『俺は引き金を引いただけ――村を焼く火は、どこから出たものか、本当にわかっていない?』

「――、いずれにせよ、貴様はここで滅びる!」


 エルフの男は相打ちを覚悟で、生涯最期の魔法を発動する。

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