第22話「キャンパスの公認カップル、甘い日常」
蓮の両親から結婚の許しを得てからというもの、僕たちの日常はさらに甘さを増していた。
夏休みが明け大学が始まると、僕たちの関係はもはや「公認」のものとなっていた。
神楽坂蓮の左手の薬指にシンプルなプラチナの指輪が光っているのを見つけた女子学生たちの、悲鳴にも似た囁き声がキャンパスのあちこちで聞こえてくる。
そしてそのお揃いの指輪が、僕、水瀬湊の指にもはめられているのだから騒ぎにならないはずがなかった。
「なあ、湊。お前、いつの間に神楽坂財閥の、次期トップの奥様になったんだよ…」
昼休み、健太が僕の左手を見ながら呆れたように言った。
「お、奥様って…! まだ、結婚してないだろ!」
「時間の問題じゃねえか。しかし、すげえよな、お前。地味で目立たないベータのふりしてたやつが、今や学園のキングの唯一無二の番だもんな。人生、何が起こるか分かんねえもんだ」
健太はしみじみと、そう言った。
僕も本当にそう思う。
数ヶ月前の僕に今の状況を話しても、きっと誰も信じないだろう。
僕自身が一番、信じられないのだから。
「湊、こんなところにいたのか。探したぞ」
背後から低い、甘い声がした。
振り返るまでもなく、誰だか分かる。
蓮は僕の隣に当たり前のように座ると、僕の肩をぐいと引き寄せた。
「健太、湊にあまり馴れ馴れしくするな。こいつは、俺の番だ」
「はいはい、分かってますよ、旦那様。ちょっと、親友とおしゃべりしてただけですー」
健太はわざとらしく、ひらひらと手を振ってその場から去っていった。
その後ろ姿は、どこか楽しそうだった。
「…もう、蓮。健太は僕たちのこと、応援してくれてるんだから、そんなに敵意むき出しにしなくてもいいだろ」
僕が少し拗ねたように言うと、蓮は僕の頬にキスをした。
「仕方ないだろ。お前が誰かと仲良くしてると、胸がざわざわするんだ」
「もう…。僕が、君以外の誰かを見るわけないじゃないか」
「…知ってる。でも、言っておかないと落ち着かないんだ」
彼はそう言って、僕の髪を優しく撫でた。
その仕草はとても愛おしそうで、僕はそれ以上何も言えなくなってしまった。
僕たちの大学での日常は、いつもこんな感じだった。
蓮は僕のそばを、片時も離れない。
講義が終わると、僕の教室の前で必ず待っている。
僕が図書館で本を探していれば、いつの間にか隣に来て僕が読んでいる本を後ろからのぞき込んでいる。
その過保護で独占欲の強い愛情は、少し恥ずかしくもあったが。
それ以上に、僕の心を温かい幸福感で満たしてくれていた。
周りの学生たちの僕たちを見る目も、少しずつ変わってきていた。
最初は好奇と嫉妬の入り混じった遠巻きの視線が多かったが。
いつも幸せそうに笑い合っている僕たちを見て、次第に温かい祝福の視線へと変わっていったのだ。
「水瀬くんといる時の神楽坂くん、すごく優しい顔してるよね」
「分かる! なんか、見てるこっちが幸せな気分になる」
そんな言葉が、風の噂で僕の耳に届いてくることもあった。
ある日の放課後、僕たちは大学の屋上に来ていた。
ここはあまり人が来ない、僕たちだけの秘密の場所だ。
フェンスに寄りかかりながら、夕日に染まる街並みを二人で眺める。
「なんだか、不思議な気分だな」
僕が、ぽつりとつぶやいた。
「何がだ?」
「だって、ついこの間まで僕は君のこと、講義室の窓からこっそり盗み見るだけだったんだよ。それが今、こうして君の隣にいるなんて」
「俺の方こそ、不思議だ」
蓮が、僕の肩を優しく抱いた。
「ずっと、探してた。やっと見つけたと思ったら、お前は俺のことを覚えてなくて。どうしようかと、思った」
「…ごめん」
「もう、謝るな。今が幸せなら、それでいい」
彼はそう言って、僕の唇に優しいキスを落とした。
夕日が僕たち二人を、オレンジ色に染めていく。
キャンパスの、公認カップル。
僕たちの、甘くて穏やかな日常。
こんな日々が、ずっと、ずっと続いていきますように。
僕は沈んでいく夕日に、そっとそう願った。
蓮の腕の中で、彼の温もりを感じながら。
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