第18話「親友への告白、そして祝福」

 蓮との関係が落ち着いてきた頃、僕にはどうしてもやらなければならないことが一つあった。

 それは、健太にすべてを報告することだ。

 僕がオメガであること、そして蓮と番になったこと。

 僕が一番辛かった時に、何も言わずにそばにいてくれた唯一無二の親友。彼にだけは僕の口から、ちゃんと伝えたかった。


 放課後、僕は健太を大学近くのカフェに呼び出した。


「改まって、どうしたんだよ、湊。なんか、神妙な顔して」


 僕の緊張が伝わったのか、健太は少し不思議そうな顔をしている。

 僕はテーブルの下で、自分の手をぎゅっと握りしめた。


「あのさ、健太。今日は、お前に話しておかなきゃいけないことがあるんだ」


「おう。なんだよ」


 僕は深呼吸を一つして、意を決して口を開いた。


「僕、オメガなんだ」


 僕の告白に、健太は一瞬きょとんとした顔をした。

 そして、次の瞬間、ぷっと吹き出した。


「ははっ、なんだよ、それ。今更、何言ってんだ?」


「え…?」


 健太のあまりにも意外な反応に、僕は呆気にとられてしまった。

 驚くでもなく、引くでもなく、ただ笑っている。


「え、なんで笑うんだよ…。僕、真剣に…」


「いや、ごめんごめん。だって、そんなの、とっくに知ってたからさ」


「…はぁ!?」


 僕は素っ頓狂な声を上げた。

 知ってた? いつから? どうして?

 僕の頭の中は、疑問符でいっぱいになった。


 健太は悪戯っぽく笑いながら、種明かしを始めた。


「お前さ、たまに、すげー甘い匂いさせてる時、あっただろ。それに、時々顔真っ赤にして、体調悪そうにしてたし。抑制剤のシート、カバンから見えてたこともあったぞ」


「そ、そんな…」


 僕は全く気づかなかった。自分がそんなにも分かりやすかったなんて。


「まあ、確信はなかったけどな。でも、なんとなくそうなんじゃないかなって思ってた。お前が自分で話してくれるまで、待とうと思ってたんだ」


 健太はそう言って、優しく微笑んだ。


「お前がベータだろうがオメガだろうが、俺たちの関係は何も変わんねえよ。お前は、俺の大事な親友だ。それだけは、絶対に変わらない」


 彼の言葉に、僕の目の奥がじんと熱くなった。

 僕はなんて、素晴らしい友人を持ったんだろう。

 一人でずっと秘密を抱えて苦しんできたが、本当はすぐそばに僕のことを理解してくれる人がいてくれたんだ。


「…ありがとう、健太。本当に、ありがとう」


 僕は涙声で、それだけ言うのが精一杯だった。


「で? 話って、それだけか? 神楽坂とのこと、何か進展あったんだろ?」


 健太がニヤニヤしながら、僕の顔をのぞき込んでくる。

 僕は少し照れながらも、うなずいた。


「うん。あの後、ちゃんと自分の気持ちを伝えて…。それで、俺たち…」


「付き合うことになった、とか?」


「…それ、以上、かな」


 僕は制服のシャツの襟を、少しだけめくって見せた。

 僕の首筋にある赤い痣。蓮がつけた、番の証。

 それを見た瞬間、健太はさすがに目を見開いて固まった。


「…ま、まじかよ…。お前ら、番に…」


「…うん」


「うわー…マジか…。あの、神楽坂と…」


 健太は頭を抱えて、天を仰いでいる。


「いや、まあ、なんとなくそうなるんじゃないかとは思ってたけどさ…。展開、早すぎだろ!」


「ご、ごめん…」


「なんでお前が謝るんだよ! いや、でも、そっか…。よかったじゃねえか、湊!」


 健太は混乱から立ち直ると、心の底から嬉しそうな笑顔を僕に向けてくれた。


「色々あったみたいだけど、お前が幸せなら、俺はそれでいいよ。本当におめでとう、湊」


「…ありがとう」


 親友からの、心からの祝福。

 それは僕にとって、何よりも嬉しい言葉だった。


 その時、僕たちのテーブルにすっと一つの影が差した。

 見上げると、そこには少し不機嫌そうな顔をした蓮が立っていた。


「湊。随分と、楽しそうだな」


 彼の声には、明らかに嫉妬の色が滲んでいる。


「れ、蓮!? なんでここに…」


「お前が、こいつと二人きりで会うって言うから、心配で見に来た」


 彼は健太のことを、鋭い視線でじろりと睨みつけている。

 健太はそんな蓮の視線を、臆することなく真っ向から受け止めた。


「よう、神楽坂。うちの湊が、いつもお世話になってます」


 まるで親戚のおじさんのような口ぶりに、僕は思わず吹き出しそうになった。

 蓮は、眉をひそめている。


「…お前に、うちの湊、なんて呼ばれる筋合いはない」


「まあまあ、そう固いこと言うなって。俺は、こいつの一番の親友なんでね。これからも、よろしく頼むぜ、旦那様?」


 健太が、にやりと笑う。

 その言葉に蓮は一瞬虚を突かれたような顔をしたが、やがてふっと口元を緩めた。


「…ああ。よろしく頼む。こいつの、唯一の番としてな」


 二人の間で火花が散ったように見えたのは、きっと気のせいではないだろう。

 僕はそんな二人を、呆れながらも微笑ましく見つめていた。


 僕の、たった一人の最高の親友。

 そして、僕のたった一人の運命の番。

 僕の大切な人たちが、こうして僕の目の前で笑い合っている。

 これ以上、幸せなことなんてない。

 僕の心は、温かい幸福感で満たされていた。

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