第27話 届かぬ星
もう俺には止められなかった。関水の暴走を。
ガチャガチャ
関水は忙しなく何かを準備している。
「なにしてるんですか」
関水「桜ちゃん取り返しに行かなきゃ」
手には角材が握られている。
--不味い。こいつは何かをしでかす。どうにかしなければ。
「僕のスマホ知りませんか?」
関水「お前は信用に値しないから、スマホは持たせられない」
関水「お前が悪いからな」
--津田にも連絡できないな。俺が止めるしか...
俺は腕と頭の痛みに耐えながら駐車場に向かった。
寮の前には桜の木があった。街灯に照らされた桜は美しかった。夜風に吹かれ、散っていく花びらに俺は目を奪われる。
関水「何、黄昏ちゃってんの」
「いえ。ただ綺麗だなと」
関水「あっそ。あっこれ返してあげるわ」
差し出してきた手には、バキバキに画面にヒビが入っているスマホがあった。
「あ...ありがとうございます。」
関水「お前、本気で言ってるの?」
「え...」
関水が何がいいたいのか分からなかった。
関水「俺に嘘つくのかって聞いてんだ」
「どういう事ですか?」
関水「それ壊されて嬉しいのか?」
「いや嬉しくは無いですけど」
関水は拳を俺の顔面に振り翳した。鼻から鉄の匂いがする。痛みにはもう慣れきってしまっていた。
関水「そこは、スマホ壊されて落ち込めよ。壊し甲斐がない」
--やっぱり人間じゃない。こいつは。
俺は言われるがまま、車のエンジンをかけた。
関水「おい。あの男、どこにいるんだ?」
--そんなの俺が知る訳ない。こいつ、自分自身も何がしたいのか、もう分かってないんじゃないか?ただ衝動に従ってるだけなのではないか?
「すみません。知りません。」
関水「お前、隠してるだろ」
裏拳が来る。俺は思わずそれを躱す。
関水「ふざけんな!!黙ってくらえよ」
関水「俺に逆らうなって言ってんの」
そして、再度裏拳がくる。
俺はそれを鼻でしっかりと受け止めた。
--こいつ、ただ支配が目的になってしまっている。
目の前にいる奴は、人を殺める事ができるモンスターだ。だが、俺には親から見放された可哀想な子供の様に見えた。
--誰かに認められたいのかな。もうこいつ自身コントロールできてないんだ。こいつの背景には何があるんだろうか。
俺は関水に対して憐れみの感情を抱いていた。
関水「じゃあ、桜ちゃんの家行くぞ。」
俺は車を走らせた。
--こいつは可哀想な奴だ。誰かに愛された事ないんだろうな。
竹田さん家の前に到着した。関水は竹田さんの部屋をただ凝視している。
--今、こいつは何を考えてるのだろうか。
朝日が登り始めた。車内に閃光が差し込む。
関水「おい。帰るぞ」
「...はい」
奴の目が潤んでいるように見えた。
--かわいそうに
関水の姿は、決して手に届かない星を掴もうとしている様に、俺には見えた...
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