第26話 消えた糸

--...くっ頭が...痛い。ここは寮の部屋か。

倒れた後、奴に運び込まれたのだろう。窓から月灯りが俺を撫でていた。


ズキッ

あの瞬間の記憶が呼び起こされた。奴は躊躇なく角材を振り抜いた。咄嗟に俺は腕で頭を庇う。角材からは釘がキラリと光っているのが見えた。直後、俺は真っ白な世界に引っ張られた。


--その後、俺はこの部屋まで引き摺られたのか。いっそ白の中で終わる事ができれば楽だったのに...


腕と頭が痛い。腕を見ると釘がささったのだろう。穴が空き流血している。そして頭部に手を当てる。手には嫌な滑りが残った。


俺は奴の中にいる何かを見た。俺のそれとは比べ物にならない。どす黒く陰湿で生暖かい化物が蠢いていた。咄嗟に腕で頭を守っていなければ、俺は死んでいただろう。


--俺にはできない。人の命を奪うことなんて。


奴はそれが出来る。躊躇う事なく、人の頭を凶器で振り抜ける。俺は今まで沢山喧嘩をしてきたからこそわかる。その一線を越える事は並大抵の人にはできない。関水にはそれが出来るのだ。


先ほどの出来事を頭の中で再現し、体が震えていた。


ガチャッ

ドアが開く音に体が硬直した。


関水「ふざけんな!部屋中血だらけじゃねーか!」

雑巾を投げつける。

ドスッ

濡れた布切れが床に落ちる。


関水「てめー部屋に住まわせてやってるのに、なに汚してんだ!」

関水は息を切らし、手には血塗れの角材が握られていた。


--ダメだ。刺激したら......殺される。


「...すぐ掃除します。」

関水「...許してやる。次逆らってみろ。殺す。」

奴の言葉の重みは今までとは比べ物にならなかった。


俺はポケットに手を入れる。

--無い。スマホが。

俺はいつもNirvanaのlithiumを聴いていた。

"I'm not gonna crack"

--俺は壊れてなんかない。

自分に言い聞かせていた。


--スマホまで取られた。何の為に俺はこの世界に戻ってきたのかな。こんな世界......もう耐えられない...


部屋を見渡した。

--無い。俺の蜘蛛の糸が...

そこにあった筈の首をくくれる様に結んであったロープが無くなっていた。


蜘蛛の糸が真っ赤に燃えて切れていく光景が脳裏に浮かんでいた。


蜘蛛の糸を見つけた時にすぐに掴むべきだった...

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