第10話 蜘蛛の糸

早朝の空気が涼しくなりはじめ夏休みが明けた。体の痣は増え続け、常に体は重かった。

瞼は重く、眠気によりだんだんと講義に出られなくなった。単位が取得できるギリギリの出席数はどうにか確保していた。


そんな日々が続き、また桜の季節がやってきた。俺は二回生になった。


柔道部に進入部員が入ってきた。新しく女性マネージャーができた。女性マネージャーの名前は竹田桜といった。よく笑い、どこか子供っぽさも持ち合わせている女性だった。彼女が笑うと部活の雰囲気が良くなったと感じた。


桜が散り、雨が降る日が多くなってきた頃、進入部員歓迎会が行われた。会がはじまって辺りを見渡すと、竹田さんと関水が仲良く話しているのが目に映った。


--そういえば、関水は彼女がいないな。そりゃ、俺とずっといるもんな。関水に彼女が出来れば、自由時間って増えるんじゃね。


俺はほとんど寝ておらず、思考力が鈍くなっていた。竹田さんに関水を押し付ける事ができればと藁にもすがる思いだった。


--今は、竹田さんに対して罪悪感があるが、この時は、ただ妙案が浮かんだという思いだけだった。


竹田さんが席をと立とうとした時、俺はすぐさま竹田さんと関水の間に入っていった。

--チャンスを逃してたまるか。


「竹田さんは彼氏いるの?」

竹田「いないですよ」

「へーどういう人がタイプなの?」

竹田「頼り甲斐がある人ですかね?」

「そしたら、関水さんが良いかも!」

竹田「そうなんですか」

俺はとにかく二人の接点を作ろうと必死だった。


俺は関水の顔色を伺った。関水はグラスを片手に、口角が上がっていた。関水は満更でもない感じだった。


--関水の方はいけるぞ。

あとは竹田さんをどうやって落とすかだな。とりあえず、関水と二人にしないと。


俺は今まで恋愛をした事がなかった。その為、どうすれば女の子を落とせるのか全くわからなかった。目を右往左往させ悩んでいると、竹田さんの鞄のキーホルダーが目に入った。

--一か八かだな。


「そのキーホルダーのキャラクター好きなの?」

竹田「はい!そうなんです!可愛くないですか?」

--食いつきがいいぞ。これをどうにか使えないか?


「関水さん、ゲーセンのバイトしてるから、頼めば簡単にそのキャラクターのフィギュア取らせてくれるよ。」

「本当ですか!」

関水に目配せをする。

関水「まあ、できるよ。」

「今度関水さんのバイト先行ったらどう?」

竹田「ぜひ、行きたいです!」

「関水さん、都合の良い時間教えてあげてください!あと、バイト前にご飯とか行ったら良いと思います!」


--よし!無理矢理な気がしたけど、とりあえず二人きりにできそうだ!あとは、関水が良い人だと植え付ければいける!

俺は二人にする為、一度その場から離れた。



津田「田中。お前なんか必死だな。でも、関水さんと竹田さんの遊ぶ約束取り付けてどうするの?」

「そりゃ、関水さんとお似合いだと思ったから」

尾瀬「お前ゲイか?関水に尽くしすぎててキモいぞ。」

津田「お前自身が遊びに行く約束取り付けな意味なくね?」


--意味は大有りなんだって!言えないけど、自由を取り戻すチャンスなんだよ。


「そうかな?いつもお世話になってるし、お似合いだから良いじゃん」


蜘蛛の糸を掴んだ気がして、この糸を切らないようにと必死だった。か細い糸にも見えたが、一筋の希望の光に見えていた...

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