第12話
用意を終えた二人は馬車で魔法学院へと向かった。馬車を降りた後は他の教員達に挨拶をした後、教室へと向かって生徒達への挨拶へと向かう。 今日は赴任初日のため、アリアが僕を紹介するために一緒についてきてくれた。
「あなたが受け持つのは実技の授業よ。魔物との戦いや対人での戦い方を生徒達に教えて欲しいわ。この授業を受ける生徒達は学年問わず優秀な成績を残した者を選んでいるの」
なんとも僕向きの授業ではある。戦いには前世で慣れているから多少は力になれるだろう。
「やっぱり僕が実践について教えることによって生徒達の実力の底上げをしたいの?」
ユリアの指摘にアリアが頷く。
「その通りよ。あなたがこの前戦ったウィルに関してもあの魔王との戦争以降に魔法士になったから戦闘経験が足りず、あなたに負けた。実力や才能は十分だったはずなのに。今の魔法士はそういったタイプが多いの。だからあなたには生徒達を魔王軍の生き残りと遭遇しても勝てるあるいはうまく戦って逃げられるくらいには育てて欲しい。全員とはいかないかもしれないけれどね」
「なるほど」
魔王がいなくなっても魔物の脅威はなくなっていない。しかも魔王の配下にも生き残っているやつがいる。しかし肝心の魔法士は優秀と言われている者でも僕に一方的にやられるような実力しかない。アリアが次世代の魔法士を育てて欲しいといった理由が分かった気がした。
「君の期待に答えられるように頑張るよ」
「お願いね、あ、着いたわ、ここよ」
アリアが扉を開けて教室に入っていく。ユリアもそれに続いて中に入った。
教室の中には生徒達が20名ほどいた。皆アリア達が入ってくるまではおしゃべりをしていたが入ってきたら意識をアリアとユリアに向けてくる。
「皆さん、こんにちは」
アリアが軽く挨拶をして話を始める。
「今日は皆さんに新しい先生を紹介します」
アリアに促され、ユリアは壇上に上がる。生徒達から好奇に満ちた視線がユリアに向かって向けられる。
「この子はユリア・レイクロード、私の弟子です、今日からあなた達の魔法の実技の担当をしてもらうことになりました。皆仲良くしてあげてね」
「よろしくお願いします」
軽く挨拶をすると生徒達から社交辞令的によろしくお願いしますと返事が返ってきた。まあ来たばかりで歓迎されるわけがないと思いながらユリアは気持ちを切り替える。
「ユリア先生は皆さんに魔物との戦い方や対人での戦闘について教えてくださいます。皆にとって自分の身を守る技術を身につけることのできる貴重な授業ですからよく話を聞くように。では私はこれで失礼します」
アリアはユリアの紹介を済ませるとさっさと教室を出て行ってしまった。教室を出て行く時に頑張ってねというように僕へ向けて片目を瞑る。そんなアリアに少し微笑んでからこの生徒達の相手をどうしたものかとユリアは思案を巡らせる。
「先生」
一人の生徒が声をかけてきた。オレンジ色の髪をしていて勝ち気そうな印象を与える女生徒だ。彼女はユリアのことを値踏みするようにじっと見ながら問いかけてくる。
「先生は魔物との戦いを経験されたことがあるのですか?」
「ありますよ、それはもちろん」
はっきりとユリアは答える。なにせ前世では魔王とその配下達の全盛期で魔物達が今とは比べものにならないくらいの脅威になっていた時代だ。ユリアにとっては数えきれないほど戦ってきた相手である。
「ふうん」
オレンジ色の髪の女生徒は疑うような視線をユリアに向けてくる。
(信用されてないかな)
今の生徒達にとって魔物とは脅威ではあるがあまり身近な存在でもないとアリアから聞かされていた。確かに出現するものの魔王との戦いが行われていた10年以上も前の魔物達に比べたら遙かに弱いのだ。それはこの時代に転生したユリアも最初に戦った魔物達に感じたことだった。
(正直、今よく見かける魔物程度なら少し魔法が使える人はすぐ倒せてしまうだろう)
だけどアリアは魔王の配下達がまだ生きているから油断は出来ない、そのために次の世代の魔法士を鍛えて欲しいとお願いしてきた。なら自分のやるべきことは一つだけだ、この子達を強くする、そのことのみに集中しよう。
「私の実力が本当かどうか疑っているのですか?」
ユリアは質問してきた女生徒に穏やかに聞き返す。女生徒は少し迷った後、はいと答えた。
「……正直、自分達とあまり変わらない年齢の先生がいきなりやって来て教員として指導されることに疑問を覚えます」
やっぱり簡単には信用されないかと内心で思いながらユリアは話を続けていく。今の見た目なら彼女がいう通り、そう思われても仕方ない、自分達と大して年齢差がないような人間が自分達に教えるというのだから疑うのも当然だ。
「君の名前は?」
「リーシャと言います」
オレンジ髪の少女は簡潔に答える、声音はどこか冷たい。
「リーシャさんの言いたいことは分かりました。確かに自分達とあまり年齢が変わらないくらいの人間が急にやってきて自分達より実力があるのかとなるのは私も納得出来ます」
なので、とユリアは言葉を区切って続けた。
「この中で私と手合わせしてみたいという方はいませんか? 出来ればこの中で一番強い方がいいです」
この教室にいる生徒達がざわつき始める。ユリアの提案を受けて誰が強いかきっと話しているのだろう。
「先生、なら私でいいですか?」
そう言って名乗りをあげたのは先程のオレンジ色の髪の生徒のリーシャだ、この空気の中で名乗りをあげるのは正直凄いと思う。それだけ自分の実力に自信もあるのだろう。
(ならその実力を見せてもらおうかな)
「私は構いません。誰が相手でも誠実に相手をするだけです、皆さんはリーシャさんが代表として戦うことを認めますか?」
ユリアの問いかけに反対の声は上がらない。教室内は静まっており、誰もリーシャの申し出に反対する人間はいなかった。それだけ周囲の生徒からも強いと認められているということか。
「決まりですね」
「ええ、よろしくお願いします」
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