AtmosFear(アトモスフィア)の魔女

Yukl.ta

序文:空気に灼かれた魔女の実験

今は米国植民地時代と呼ばれた、あの時代。

かつて私は…。

普通の、人間でした。

一人の、少女でした。

けれど。

自由も意思も奪われて。

四肢を縛られ磔(はりつけ)にされ、

衆目に晒された恥辱の中で。

火刑に処されました。


磔台の下部に置かれた薪に灯された炎は、

空気を吸って私の纏う簡素な衣服に燃え移り、

小さな私の身体を燃やし尽くしたのです。


…私は、空気に灼かれたのです。


『空気』

それは、燃料と結びつくこと化学反応を起こし、物質に燃焼現象を与えるものです。

私が生きていた時代には、そんな科学的知見など存在せず、存教育的な啓蒙思想も不十分…。

全ては人間が管理する事など不可能な超自然的な現象…神の成せる御業(みわざ)とされていました。


まず最初に。

私が描く、この『物語』のテーマを語りましょう。

それは『空気』です。

…空気。

それは、現代を生きる全ての人間の周囲に在るモノ。

人は常に空気に触れていなければ、生きてはいけない。

言わば、この世界に遍く全ての人間は『空気に取り囲まれて』います。


現代社会における科学的検知とやらに照らし合わせて述べれば…。

そんな空気が人に害をなす問題は、多岐に渡ります。

工場や自動車の排出ガス…大気汚染。

汚染された空気による酸性雨は生態系に大きな被害を与える。

大気の汚染物質と紫外線が反応して生じる光科学スモッグ。PM2.5。

風に乗る汚染物質による環境汚染は地球規模で自然を蝕む。

呼吸器系の病気や心臓病、アレルギーの悪化など、生命に関わる健康被害を引き起こす。

…。

しかし、私が懸念する空気とはそこではありません。

もっと臨在(プレゼンス)的な問題であり、

もっと感情(エモーシャル)的な課題であり、

もっと命題(テーゼ)的な難題なのです。

…きっと意味がわからないと思いますが。


セイラム魔女裁判。聞いたことがあるでしょうか。

魔女狩りです。

数多くの女性が魔女だと告発され、有罪となり、処刑されました。

200名以上の多くの罪無き人々が、灼かれたのです。

まさに、惨劇の歴史です。


その惨劇は、一冊の書物が始まりでした。

その書物の名は…。

『魔女に与える鉄槌』。

たかがその書物一冊が、現実の文化に差別と悪意を与えたのです。

そう。

惨劇の始まりは、たかが一つの書物が描いた…『物語』でした。



かつては空気に灼かれ、一度は塵芥と化したはずのこの身体。

しかし、私は生まれ変わりこの国に再誕することができたのです。

奇しくも、かつて私を貶めた魔女の力を得て。


私は唱えたい。

『人はもっと空気を大切にすべき』なのと。

それこそが、世界をより良き方向に導くものであると私は信じています。


しかし世間は、そんな事は『当然』であり『当たり前』であり『解っている』としか思いません。

だって空気は当たり前にあるものだから。

当たり前すぎて、その真の姿が見えていないのから。


ならば。

私が、社会に問いかけましょう。

かつて私がされたように。

『物語』の力…イマジネーションの可能性を用いて。



「私は世界を『空気』から救います。」

「それが例えどれほどの犠牲を払ったとしても。」

「その為の実験台となる人間は、もう既に見つけました。」


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