第2話 大きすぎる秘密の告白
佑樹は、腹の底から湧き上がる怒りによって、呼吸が浅くなるのを感じた。なぜ、この屈辱的な真実を、よりによってこの状況で幼馴染の二人に晒さなければならないのか。しかも、一人は親友の恋人である文香だ。彼は、この密室で、彼の身体が持つ秘密という名の爆弾を、自ら起爆させなければならないという、究極の自己嫌悪に苛まれていた。
菜月は、佑樹の自尊心を容赦なく踏みにじりながら、屈託のない顔で笑っている。その挑発は、佑樹の感情の閾値を試す、無邪気な悪意に満ちていた。
「っ、理由が、大きすぎる、て! 痛くて、満足できないって、言われたってこと!? あはははは! 屈辱すぎるだろ、それ!」
菜月は、腹の底から絞り出すような爆笑と共に、床の上を転がり、涙を浮かべている。その声は、ラブホテルの石造りの壁に反響し、佑樹の耳を容赦なく責めた。屈辱と羞恥は、菜月の笑いによって最大限に増幅され、佑樹の自己肯定感は粉々に砕かれた。夢を失った理由が「英雄的な行為」ならば、愛を失った理由は「肉体の異形」という、あまりにも下世話で、馬鹿げた事実だった。彼は、自身の人生の皮肉を、この場で徹底的に味わわされていると感じた。
「うるせえよ、馬鹿! もう、やめろ、菜月!」
佑樹は叫んだが、菜月の笑いは止まらない。彼女は無理やり体を起こすと、涙で潤んだ丸い瞳を、再び佑樹の股間へと向けた。彼女の頬は、笑いの熱で紅潮し、小柄でスレンダーな体躯が、今にも次の悪ふざけへと飛び出しそうな能動的な衝動に満ちていた。彼女の肌から放たれる微かな熱と体臭が、佑樹の五感を刺激し、彼の内なる欲望を掻き立てる。
「でも、小学校の時は、普通の大きさだったと思うけれど」
菜月は、息を整えようと咳き込みながら、まるで、遠い昔の秘密基地での記憶をたどるかのように、ぶしつけな言葉を口にした。その言葉は、佑樹の最も触れられたくない領域へ、さらに一歩深く踏み込んできた。菜月にとって、それは単なる好奇心であり、友情の延長線上の軽口に過ぎない。だが、佑樹にとって、それは、過去の安寧な自分と現在の欠陥のある自分を最も残酷な形で比較させる行為だった。彼の心は、幼馴染の絆が、こんな形で蝕まれていくことに、激しい苦痛を覚えていた。
「いつの話だよ。勃起時の膨張率の問題だ」
佑樹は、理性をかき集め、努めて冷静な、科学的な言葉を選び、事実を突きつけた。その言葉の裏には、「これは、俺の意思とは関係ない、生まれ持った体質なんだ」という、悲痛な自己弁護と、理性の崩壊を食い止めるための最後の抵抗が隠されている。しかし、その声は、自身の屈辱的な事実を、自らの口で再確認させる行為にしかならなかった。彼は、この秘密を共有することで、彼女たちの下世話な好奇心を鎮められるのではないかという、淡い、だが倒錯的な期待を抱いていた。この期待こそが、彼を泥沼へと引きずり込む引力だった。
菜月は、その専門的な言葉を聞き、一瞬、笑いを止めた。彼女の顔には、「下世話な冗談」から「生物学的な事実」への、好奇心のスイッチが切り替わる明確な表情が浮かんだ。彼女の口元は、笑いから、興奮を抑えきれない歪んだ形へと変化する。佑樹の股間に向けられた菜月の視線は、もはや嘲笑ではなく、友情の境界線を越えて、未知の領域を覗き込もうとする、探求者のそれへと変わっていた。彼女の瞳には、この異常な事実が持つ、新しいスリルへの確信が宿っている。
そして、その時、佑樹はソファの隅に座る文香に、劇的な異変が生じていることに気づいた。
文香は、依然として両手で顔を覆い、浴衣の袖に顔を埋めている。しかし、彼女が発する微かな荒い息遣いは、もはや羞恥心によるものではなかった。それは、抑圧された情動が漏れ出るような、喘鳴にも似た微かな音だった。彼女の顔を覆う両手の指の間から、彼女の黒縁眼鏡の奥の瞳が、熱に浮かされたように輝き、佑樹の股間へと集中している。その視線は、優等生の理性を振り切るほどの、未知の男性器への抑えきれない本能的な好奇心に満ちていた。彼女の上品な仮面は、菜月の挑発と佑樹の屈辱的な告白という二重の衝撃によって、すでに内側からひび割れ始めていた。彼女の文学少女としての内面が、官能的な小説という形で昇華させてきた性的な探求心が、今、現実の「肉体の異形」を前にして、抑えきれなくなっているのだ。
文香は、佑樹の「勃起時の膨張率の問題だ」という具体的で生々しい言葉を聞いた瞬間、抑えきれない衝動に駆られたかのように、顔を覆う手を微かに下げた。眼鏡の奥の瞳は、今や隠すことのない欲望を帯び、佑樹の下腹部の膨らみへと集中している。その視線は、「あなたの肉体が、清い愛では満たされない私を、救ってくれるかもしれない」という、悲痛な祈りにも似た切実な渇望を滲ませていた。彼女にとって、この告白は、彰太との愛の不完全さを決定的に突きつける、残酷な救いの手だった。
そして、彼女の指先が、まるで磁石に引かれるかのように、膝の上から微かに浮き上がった。それは、内向的な性格と彰太への罪悪感という、彼女を縛り付けるすべての枷に反して、その「未知の領域」へ触れてみたいという、本能的な渇望が、理性を凌駕し始めたことを示している。彼女の指先が、空間を微かに掴むように震えるのは、彼女の心の中の倫理と欲望の激しい闘争を表していた。
文香の浴衣の下、豊満な胸部が、彼女の荒い息遣いに合わせて、激しく上下している。その微かな動きは、文香の長年抑圧された性的な激情が、今、このラブホテルの密室で、罪悪感という重しを乗せたまま、静かに、しかし確実に、爆発寸前の状態にあることを、佑樹の視覚と聴覚に訴えかけてきた。佑樹は、自らの屈辱的な秘密が、菜月の性的好奇心という火を点け、文香の抑圧された欲望という鍵を開いてしまったことを理解した。彼の屈辱は、彼女たちにとっての新しいスリル、そして禁断の扉となったのだ。三人の関係は、この瞬間、「身体的な秘密の共有」という、最も歪んだ、不可逆的な共犯関係へと、音もなく、深く移行し始めた。佑樹は、この状況の倒錯的な快感に、既に抗うことを諦めていた。彼の頭の中で、「どうにでもなれ」という、人生の目標を失った者特有の虚無的な諦念が、静かに響き渡った。
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