泡沫のゆめ

 ぼくはヨアヒム・ディッケン。

 小さな宇宙輸送船の若船長。

  船員は友のエドムンド、ぶちねこのシピ。


  野菜にくだもの仕入れて、あちらの星へ。

  本にじゅうたん仕入れて、こちらの星へ。


  ある日、船がデブリと衝突!


 ぼくはひとり投げ出され、宇宙をただよう。ぐすん。


 勇ましいエドムンド、無事かしら。

 ちいさなシピ、無事かしら。


 神秘の乙女あらわる!


 はしばみ色の髪にペプロスまとった乙女。

  真空の空を舞い踊る。


 ーーこんにちは。紳士さん。よい陽気ですこと!

  ーーまったくです。おじょうさん。いまにもかみさまの御許みもとへゆけるほど。

 ーーまあ!かみさまのところへゆくのね。素敵だわ!

 ーーしかしぼくは汚れてみっともない。ほこりとあせ。灰色のスペーススーツ。きっと天国でわらいもの。

  ーーそうだわ。たいへんよろしくないわ。紳士さん。天国ではきちんとしていなくては!さあさ!わたくしのうちにいらっしゃい!


 

 おお。宇宙の神秘!


 ぼくはバスタブのなか。

 薔薇に耶悉茗じゃすみん薫りたかく。


  ぼくはうっとり湯あみを愉しむ。

  耳のうらまでかかさず磨きあげる。


 

 おお。宇宙の神秘!


 ぼくは大理石でしつらえた居間のなか。


 ふさのついた天鵞絨びろうどのじゅうたん。

 やまと積まれた銀繻子ぎんしゅすのクッション。

 モスリンに亜麻あまと真珠とを編み込んである天蓋。


  横たわる乙女。

 かたわらにユニコーン。


 ーーさあさ。くつろぎなすって!

 ーーはちみつたっぷりの熱々のお紅茶いかが?


 硝子がらすのカップになみなみと。

 ぼくはすっかり夢見ここち。



 「とんまな船長め!ともが助けに来たぞ!」


 そこへ友、エドムンドあらわる!

 肩にぶちねこシピ、手に赤い柄のモップ。


 「れれ。エドムンド無事だったのかい」

 

 「おうとも。おまえを救い出すため、宇宙のかなたより遥々はるばるまいったのだ」

 

 「なんて頼りがいのある友だ。しかし案ずるな。ぼくはこのとおり。親切なおじょうさんに助けられて、すっかりくつろいでいる」

 

 「なにを寝ぼけたことを。友よ」


 エドムンドは勇ましく、モップで乙女を指し示す。

  

 「そうだ。ここは魔境だ。あれは悪い夢にすぎぬ。友よ、疾く目を覚ますのだ!」


 エドムンドはモップを振りかざし、乙女に立ち向かう。

 乙女は立ち上がり、西を指した。

 するとユニコーンはドラゴンになり変わり、友に襲いかかる!


 するとシピはするどい爪をくれてやり、

 友はモップをフルスイング!


 気がつくと、乙女もドラゴンもなく、空の宇宙船のなか。

 

 ぼくはポツリ。


 「ありがとう。友たちよ。目はすっかり覚めた」

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