第40話:レッドオーシャン①
――――”2つ目の通知” が視界に現れた時、部隊長マキは目を見開いた。
”2つ目の通知” は、隊員たちの士気に関わる為だ。
特に、新米隊員が多い 今回の様な場合は、重要な情報の通知・共有には、一時的 または 永続的に制限がかかる事がある。
そして その通知の有無は、隊員たちの経験などを考慮し、予め国衛隊 情報課の判断で設定されていた。
”2つ目の通知” が即時共有されたのは、マキ、ケンジ、そして単独行動者2名(ヤマト・カズマ)と、新米隊員以外の数名だ。
(あの後、ヤマトは1人で、独りで、森の中を進んでいった)
――続いて、国衛隊 情報課から、マキへと指示が入った。
「クソッ。”至急、目視で確認しろ” という指示だ。のんびり してやがる!」
マキとケンジは、リーダー格であろうヨハンを発見する為に動きつつ、戦闘中の味方にも合計3回加勢していた。
とうぜん、動けば動くほど、徐々に疲労も蓄積されていく。
そして今は、1つ目の通知──カンナがヨハンを発見(視認)したとの報告が情報課から来た後、カズマが現場へ急行・尾行してくれている地点へと、マキも急行している最中だったのだ。
――マキは、部隊長としての責任の重さを 痛感せざるを得なかった。
アメルカとの集団的自衛権があるから、こんな――極めて重大な事態、つまり交戦状態突入などは起こらない、起こる確率は極めて低い、と思っていた。
国衛隊の上層部にスパイが紛れ込んでいようと、スパイが裏工作をしようと、ここまでの事態になる確率は極めて低い、と思ってた。
(マキだけではない、国衛隊の大多数の人間も同じ考えだったに違いない)
――しかし、実際に起こってしまった。
一刻も早く対応して、犠牲を最小限に留めねばならない。
不幸中の幸いか、ヨハンの進行方向は北、2つ目の通知が示す地点は北西。
まるっきり別方向……というわけではない。
──すでに憔悴しているケンジに対し、マキは命令しなければならなかった。
「走るぞ。そこまで10分前後ってとこか」
――――3名の敵兵から追跡されながら、森の坂道を駆け上るオウカは――突然、立ち止まった。
そして、そのまま立ち尽くしている。
敵兵3名は、3分ほどオウカを追跡、足場の悪い坂道を駆け上がっていたので、息を切らしていた。
ぜえぜえ、と激しい呼吸音の重奏と共に、オウカを取り囲む。
オウカの視界には、マキが受け取った ”2つ目の通知” と同じ内容が表示されている。
――敵兵1名が、オウカのガラ空きの背中に、軍用ナイフを片手に襲い掛かる。
-ゴッ-
襲い掛かった敵兵の視界には、突如として青い空が広がり――直後、覆いかぶさる様に 黒い闇が視界を包む。
失神した男の身体は、どさっ、と地面に倒れて 横に1回転して止まった。
右の裏拳を放ったオウカは、通知された内容を確認して――後悔した。
そして、走り出す。
敵兵2名がいる間を、走り抜ける。
敵兵2名は、吹っ飛ばされ失神した男を見て呆然としながら……オウカの背中を見送った。
――オウカは、走りながら考える。
私の判断が間違っていたのか?
……いや、それは結果論だ。
私は、どうすべきだったのか?
あの時点の情報では、あの判断がベストだったのか?
オウカの思考は混乱していたが――極めて迅速に、自身の身体を目的地へと運ぶ。
深い森の中――樹々を、草木を、岩石を。躱し、飛び越え、走る。
脳内は混沌としていたが――極めて正確な判断を、身体が下す。
祖国・シーナ国軍で五体に叩き込んだ、高速移動術パルクールを存分に駆使し、表示された地点へと向かう。
――数分後。
私が全力で走ると、新米隊員として不自然なスピードで移動すると、情報課に怪しまれるのではないか?……という懸念が脳裏をよぎる。
その気付きが、脳内に新たな混乱――さらなる混沌をもたらした。
”たまたま、障害物がとても少なく、適度な下り坂で、足場も良くて――速く走りやすい地形だった”
そんな言い訳が浮かんだので、全速力の移動を続行した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます