第29話:世界最悪③


――国衛隊・情報課からの指令が、マキの視界に表示された。


(情報課は、情報システム管理・戦時の指令を管轄する部署。


忍者族も多数所属している……と言われている)




「数人ずつの小隊に分かれる……との事だ」


マキの言葉の数秒後、隊員達の視界に名簿が表示された。


チーム分けに関する情報。




2人1組、又は 3人1組の――12組の小隊に分かれる。


それに加えて、1人……つまり単独行動をする者も、2名いる様だ。


オウカの名は――カンナと共に記載されている。


エレナの名は――同じ基地所属の、ツリ目の少年・セイイチと共に記載。


新米同士のペア。




こんな絶海の孤島でも、衛星ネット回線システムは存分に機能する。


(世界一の実業家が運営するSatellite linkを使用。先進国では自前で開発している例もある)




数名の乗組員(非戦闘員)を残し、部隊は魚釣島を往く。


ぐるっ と断崖絶壁を左へ、つまり西へと迂回していく。


左には果てしなく広がる大海原。


見上げると、平和を象徴するかのような青空――と共に視界の右側に入るのは、ゴツゴツとした絶壁。


度重なる崩落により、白い岩肌がむき出しになっている。




――心地よい波の音。


青空から降り注ぐ、暖かい陽射し。


どこからともなく聞こえてくる チュン、チュン……という小鳥の鳴き声。


交戦状態だというのに、長閑のどかな雰囲気が隊員たちを包み込んでいく。




――オウカは、カンナに視線を向ける。


長閑な雰囲気の中を歩くことで、緊張が和らいできたのか……。


まだ緊張しているが、震えは止まっている。




――エレナは、ペアを組む相手――同基地の少年・セイイチと会話を始めていた。


「よろしく~。同じ基地だけど、話すのは初めてかな?」


セイイチはエレナに視線を合わせ、歩きながら最敬礼をする。


「はい。何卒宜しくお願い申し上げます」


「……カタいよ~」


「父が政治家なモノで……表面的な礼儀には厳しいんです」


少年は、進行方向に視線を向け直し――そのツリ目を更にツリ上げながら、言葉を発する。


「……信念の無い、日和見主義のクズ野郎だけどね」


「――詳しく、聞きたいな」




――30分間ほど歩くと、正面にも大海原が広がっていた。


島の南西の端が近づいてきたようだ。


右側を見ると、天を衝く様な断崖絶壁は、身の丈よりも小さな壁となり、その先には深い森が広がっている。




「この森を進む」


マキの発言と同時に、オウカは 周りを見渡す。


新米隊員はおろか、先輩隊員たちの多くも困惑している。


まさか今日、北夕鮮が島に上陸するとは――そして 交戦状態に突入するとは、予想だにしていなかった――そんな表情だ。




いや、一つの起こりえるパターンとして予想はしていたが、実感が伴っていなかった。


しかし、視界の悪い森の中に進む……という状況になって、実感せざるを得なくなったのだ。


木の陰に隠れた敵が、突然目の前に現れ攻撃してくる……そんな状況をイメージせざるを得ないのだ。


――いや、目の前に現れてくれるなら、寧ろ親切。


背後からの不意討ち……武器を使用されたら……


【死】




――マキは、背を向けたまま、隊員達の精神状態を察知している。


こんな状態の隊員たちを鼓舞するために、気の利いた事を言わねばならぬ立場である。


自分の個人的心情より、この部隊の長であることを優先し、冷静沈着に気の利いたスピーチをしなくてはならない立場である。


――背を向けたまま、言葉を続ける。




「――総員、大切な人を思い浮かべろ」


困惑していた隊員達たちは、思い思いの大切な人を思い浮かべる。


オウカの脳裏には――今は亡き母親の姿が、思い浮かぶ。




「お前自身の その手で、その人を護るんだ」


――マキの両腕に、血管が浮き上がる。




「綺麗事じゃあ、護れるモンも護れねぇ」


――マキの顔に、青筋が立っていく。




「日ノ国の平和とか、高尚な大義は一旦 忘れてもいい」


――マキの顔が、隊員達の方へとゆっくりと振り返る。


「自分本位の正義を貫け。どうせ それが、日ノ国の大義に繋がる」




本人なりに気の利いたスピーチを展開する、マキの顔は――


「相手が攻撃してきたら、武器を使ってきたら、むしろ喜べ。


これ幸いと、嬉々として武器を使用、お前らの過酷な訓練の成果を遺憾なく発揮し――」


――極々、個人的な心情を表現している。


「――敵を殲滅せよ」


冷静沈着に、怒りと暴力性を湛えている──そんな表情だった。



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